引き際 (Page 2)
「どれぐらい損したんですか?」
「ひと月分の食費ぐらいかな」
「冗談でしょう?」
「いや、マジ」
溜息を吐き、孝也は財布からパチンコの勝ち分を取り出した。それを全て渡そうとして、少しだけ考え、三分の二だけ手の中に残した。
「これ、生活費の足しにしてください」
「えぇっ!?」
「お子さんいるって言ってたじゃないですか」
「でも」
「懲りたら、パチンコやめるか、ほどほどにした方が良いですよ」
「……うん」
亜希子はおずおずと孝也から現金を受け取り、そそくさと自分の財布に締まった。
もう一度、孝也は溜息を吐いて立ち上がると、亜希子とその日は別れた。
初めてパチンコを打ってから数週間後。
孝也はバイト先であるスーパーの休憩室で弁当を食べていた。
本来は廃棄になる期限切れの商品をこっそりと掠め取っている。学生である孝也は収入も限られているので、可能な限り節約をしているのだ。
平日の暇な時間なので彼の他には休憩室の周囲に人の気配はない。
ゆったりと廃棄弁当を食べていると、そんな彼の安寧を打ち破るように休憩室のドアが開けられた。
食べかけの弁当を孝也は慌ててロッカーに隠し、お茶で口の中身を流し込む。
「お疲れ様でーす」
明るい声でそう言いながら現れたのは亜希子だ。
「……お疲れ様です」
「店長はお店?」
「そうです」
「シフトって、締め切り今日だよね」
亜希子は鞄の中からシフト希望の紙を取り出す。雑に鞄へ突っ込んでいたのか、変な折り目が付いている。その変な折り目が付いたシフト希望を休憩室の隅にある亜希子はパソコンの前へ置いた。
そして、彼女はダンスでもするように踵を軸にくるりと回転し、孝也へ向き直る。
「あのさぁ、孝也くん」
「なんですか?」
「お金貸して」
「は?」
「また負けちゃって」
「嫌ですよ」
「少しだけだからさ」
「俺のこと、ATMかなんかと間違えてませんか。旦那さんに借りてください」
「そんなことできるわけないじゃん」
「じゃあ、何で俺からは借りれるんですか?」
「この前、貸してくれたし」
「嫌です」
レビューを書く