触れられない恋
大学のサークルの飲み会で泥酔した井口信行は、同じサークルの北宮紗和の部屋で目を覚ました。紗和は関係を持ったと告げ、黙っていてほしかったらセフレになってと提案する。そうしてセフレとなった二人だったが、紗和は井口への想いを隠していた。他に好きな人がいる井口をあきらめようとしながらも、関係を続けるのだった。
朝、目を覚ました井口信行君は最初、訳が分からないといった様子でぼんやりしていた。
ここは1DKの私の部屋。彼にとっては知らない部屋だから同然だった。
「ゆうべ、飲み会でひどく酔ってて危なかったから、私の部屋に連れてきたの。覚えてない?」
「……覚えてない……」
「ふーん。どうぞ」
私はコーヒーの入ったマグカップを手渡した。
「ありがとう……」
受け取って、井口君はまじまじと私を見た。
キャミソールと下着だけの姿を見られて、マグカップを持つ手がかすかに震える。薄い布地を乳首が押し上げている様も見えているはずだった。
井口君がシーツをめくった。自分が裸でベッドに寝ていたと知って、驚いた顔で私を見る。
「何も覚えてないの?」
「覚えてない……飲み会の途中から記憶なくて……」
大学のサークル、映画研究会の飲み会で井口君はひどく酔っぱらっていた。
「えーと……北宮さん……」
「何?」
「その……俺達……」
「したわ。セックス」
井口君がショックを受けたような表情になった。女の子としておいて失礼な話だけど、予想通りの反応だった。
「あの……ごめん、俺」
「井口君、サークルに好きな子いる?」
「えっ?」
「好きな子に、こんな事知られたくないでしょ?」
井口君が黙り込む。
「取り引きしない? この事は誰にも言わないからセフレになってよ」
「それは……」
「好きな子に義理立てしたいなら、直に触れないっていうのはどう? まあでも、断るなら画像付きで言いふらしちゃうけど。私達付き合ってますって」
井口君はやけくそのように答えた。
「……分かった。取り引きする」
「取り引き成立ね。じゃあ早速、第2ラウンドといきましょうか」
私はマグカップを置いて、タンスの引き出しからコンドームを取り出した。
「してる間は北宮じゃなくて紗和って名前で呼んでね」
直に触れないように、井口君は服を身につけた。
私も黒いストッキングを穿いてシャツを着た。お腹の辺りのボタンだけ留めて、深呼吸してからキャミソールを持ち上げる。
「触って……」
掃除用に買っておいた、薄い半透明のゴム手袋をはめた手が乳房に触れる。滑りの悪いゴムに肌が引っ張られた。
「これ使って」
オリーブオイルの瓶を渡す。
手に垂らし、こすって温めてから触れてきた。
「ん……」
オイルで濡れ光る乳房が手の動きに合わせて形を変える。そんなに大きくはないけど、形は悪くないとは思う、たぶん。
ストッキングの股の部分をハサミで切る。たっぷりのオイルをまとった指が入り込んできた。違和感に大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせながら耐える。
井口君が耐えきれないようにズボンのチャックを下げた。
勃起した男根にコンドームをつけるのを、直視できずにちらちら視線を送る。
……私の体で興奮してくれている。
切ないけど綺麗な終わり方……素敵でした
もちまる さん 2023年8月3日