今は獣のままで

・作

キャンプ場で名前も知らない女性とひょんなことから肉体関係を持った段田(だんだ)。お互いに細かい素性は知らず、配偶者がお互いにいることは左薬指の指輪で知る程度の間柄。二人は誰もいないキャンプ場で獣のように交わる二人の一夜。

キャンプブームは終わった、とはアウトドアメーカーに勤めている友人の言葉だ。
 本当かどうかは素人にすぎない段田(だんだ)には分からない。しかし、休日の楽しみであるキャンプを、静かなキャンプ場で過ごせるのならブームの終焉も悪くない。

 妻は段田がキャンプを始めた当初はお義理のように付き合ってくれたが、今ではそれもない。むしろ、段田が家を空けることを自由時間が増えると喜んでいる節もあった。
 お互いに自由な時間を持つことは悪くないだろう。
 段田もそう割り切って、一人でキャンプを楽しむことにしている。

 テントを張り、寝泊まりする準備が整え、段田は一人で座るには少々大きいアウトドアチェアに腰を落ち着けて焚き火を始めた。

 焚き火の中へ薪を一つ入れるたび、段田は胸の内に溜めこんでいた不満も一緒にくべてしまう。そうして火に放り込んでやると、鬱憤や不満も焼かれて心がすっと軽くなる気がするのだ。

 穏やかに焚き火を眺めていると、キャンプ場の管理人がやってきた。
「七時になるんで引き上げますね。なにかあったら、緊急連絡先にお願いします」
「はい」
「火の用心でお願いしますね。あと、他にも常連さんが一組いらっしゃるのでトラブルのないようにお願いしますよ」
「分かりました」
「それじゃ、ごゆっくり」
 老齢の管理人は軽く手を上げ、段田の前から去って行った。しばらくすると駐車場から管理人の車が出て行くのが林の向こうに見える。

 人里離れたキャンプ場では街中よりも、早く夜が来るかのように錯覚する。それは人の作る明かりがなく、一層夕闇が濃く感じるからだろうか。

 段田が火を絶やさぬように薪を投げ入れると火の粉が舞い、夜気に溶けた。
 火の粉の向こうから静かな足取りで一人の女性が現れる。地味な色合いのアウトドア向きの格好をしている彼女は、服装と同じように地味な容姿をしていた。器量よし、というわけではないが、殊更に醜くもない。取り立てて特徴もない女性である。

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