青春の残滓

・作

堀田瞳はある日、息子の友達の父親に会って驚く。その父親、誠治は大学時代につきあっていた元彼だった。誘われるまま、関係を持つ瞳と誠治。夫よりも自分の体を知り尽くしている誠治に、関係を断つ事もできずにいたが、同時に夫も愛していて……。

幼稚園に通う息子は、最近、柚希ちゃんがお気に入りのようだった。時々家に遊びに来る女の子に、少し複雑な感情を抱きつつ、堀田瞳は笑顔でお菓子とジュースを出した。
「はい、どうぞ」
「ありがとう、蒼君のママ」

 こんな小さな女の子に息子が取られるように思うなんてと内心苦笑する。最近の子はませているとは早すぎる。けれどそれよりも、柚希ちゃんを見ていると、なぜか懐かしく感じるのが不思議だった。

 その原因が分かったのは、幼稚園のお遊戯会だった。
 発表の前に息子と柚希ちゃんと3人で話していると、柚希ちゃんが手を振った。
「パパ、こっち」
 つられて、顔を向ける。
 瞬間、息が止まった。
 向こうも気づいたらしく、浮かべかけていた笑顔が固まる。

「パパ、どうしたの?」
 駆け寄った柚希ちゃんが父親を見上げた。
「あ……何でもない。……初めまして、柚希の父です」
「……初めまして……蒼の母です」
「仲良くさせて頂いているようで……」
 何でもないように世間話をしながら、瞳はそっと胸を押さえた。

 柚希ちゃんの父親、誠治は大学時代の元彼だった。

 お遊戯会の発表を見ながら、瞳は隣に座っている誠治に話しかけた。
「名字、変わってたから分からなかったわ」
「両親が離婚して、母方の性になったんだ。そっちも名字が変わってたから、気づかなかったな」
「そうね」
「結婚したんだな」
「そっちもね」
 しばらく黙ってから、周りに聞こえないように小声で誠治が言った。
「……この後、時間あるか?」

*****

 結局は時間があるはずもなく、子供達が一緒に遊びたいと言うので、瞳の家に来る事になった。

 子供達がアニメ映画を観始めたのを確かめて、2階の寝室に行った。
 ドアを閉めるなり、抱き締められる。
「変わってないな」
「そんな事ないわ……年取ったわよ」
 体にすこしずつ肉もつき始めたし、長かった髪も邪魔だと切ってしまった。

 誠治とは嫌いになって別れたわけではない。遠距離は無理だと、瞳から別れを告げたのだった。誠治が就職を遠方の会社に決めた事も、自分がないがしろにされているようで許せなかった。今にして思えば、若気の至り、お互いに思いやる気持ちが足りなかった。

 口づけされ、久しぶりの感触に瞳は身体の中心がしびれるのを感じた。
 息子が生まれてから、夫との行為はほぼなくなってしまった。もう女として見られていないのか、自分はもう蒼君のママでしかないのかと寂しく思っていた。

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