二人きりでかくれんぼ
智則(とものり)と、その恋人・凜(りん)。二人のデートは変わっている。どちらかの住まいの最寄り駅で、画像をヒントに隠れている一方を探すのだ。隠れて。見つけて。そして、日常から少しだけ非日常のあわいへと踏み出す瞬間の密事。
ホームに滑り込んだ電車から、ぱらぱらと人が降りていく。
智則(とものり)もその一人だ。
通っている大学とも、自宅とも離れている駅ではあったが、彼は慣れた様子でホームを歩いて改札へ向かう。
そんな彼のスマホがポケットの中で振動する。立ち止まってスマホを確認するとメッセージアプリの着信だった。メッセージの中身を確認すると、ヒント1という短いメッセージに画像が添付されている。
画像は小さな公園でベンチと植木、遊んでいる子供と母親らしき姿が写っていた。
智則はホームの隅でじっくりとその画像をチェックする。時折、図像をズームして細部を確認もした。
画像の中に見覚えのあるものを見つけた智則は、やっとスマホをポケットに仕舞い込み、歩き出した。改札へ向かう足取りは先程よりも、やや早くなっている。
改札を抜けると、平日の駅前はそれなりに賑わっていた。
飲食店からは食欲をそそる匂いが漂っており、智則は少しばかり名残惜しい気持ちでその前を通り過ぎていく。
この町を智則は大きく三つのエリアに分けていた。
先程通り過ぎた駅前を中心とした再開発を終えた地域と、これから再開発が予定されている地域。
そして、再開発計画から外れたのか、それとも住民が反対しているのか、歪に切り取られた飛び地のような地域だ。小島のようにあちこちにその飛び地はあり、再開発されたエリアを衛星のように取り囲んでいる場合もあれば、再開発予定エリアの隅にぽつんと取り残されていることもある。
彼が足を向けているのは、そんな飛び地の中でも比較的サイズの大きい場所だ。
古く大きな家屋敷とそれを囲む背の高い土塀。
ちろちろと水の流れる小さな水路。
突然現れる真新しい駐車場。
老朽化したアパート。
小さな木製の門構えと庭のある木造家屋。
居眠り老人が店番をしている商店。
古ぼけた酒屋。
看板がくすんだ理髪店。
こんもりした鎮守の森を背負った神社。
そういった町を構成する諸々がモザイク状に入り混じったエリアを智則は歩いている。
足取りは気紛れな散歩のようで、たまに立ち止まってはスマホで先程の画像と景色を見比べている。
智則がそうして辿り着いたのは、小さな公園だった。時刻が昼時になっているせいか、画像に移り込んでいた親子の姿はない。
しんとした公園はどこか物寂しい雰囲気がある。
智則は公園を横切り、ベンチの近くまで行く。そして親子が立っていた辺りで立ち止まり、周囲を見回し、最後に目を止めた。
公園の敷地は概ね四角い形をしている。三方を背の高い金属のフェンスで取り囲まれ、残りの一方を利用者の出入りするため、背の低い車止めが設置されていた。
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