二人きりでかくれんぼ (Page 2)

 彼が見ているのは公園で一番奥まった部分のフェンスである。公園の奥まった部分は雑木林と隣接しているせいか、緑色の蔦が縦横無尽に這い回っていた。そのせいで緑色の壁ができているようにも見えている。

 散歩の延長のように智則はのんびりとした足取りで歩き出す。

 フェンスの前に辿り着いた彼は迷いなく、手を伸ばした。伸ばした手でフェンスを引っ張ると扉のように動いた。動く際の手触りは重く、金属が擦れる耳の奥を引っ掻くような音が地面を這う。

 ぽっかりと緑色の壁が開き、雑木林の奥へと続く細い道が眼前に開けた。

 雑木林へと踏み込み、そっとフェンスを元に戻すと裏側からは、元からその部分が扉のように開閉可能なものであったことが分かる。円形の取っ手の部分が簡便な鍵ともなっており、回転させることでロックを開閉できる仕組みのようだ。

 智則は再び閉ざされた緑の壁を背に、頭上を梢で閉ざされた雑木林の中を歩き出す。
 湿った腐葉土が足音の大半を飲み、日が射さないために足元の影も薄く鳴りを潜めている。
 道らしき道はない。
 下草でもあれば踏み跡が見受けられただろうが、まだ繁茂する時期ではないのか暗い茶色の色彩が視界の殆どだ。

 それでも智則は可能な限り、真っ直ぐ進む。目標などないが、他にできることもないという諦念に似た感覚だ。
 不意に、カシャッ、と硬い音を耳が拾う。それはシャッター音だった。実際にフィルムカメラを使ったことはないが、電子音として再現されたものは耳慣れている。

 ぐるりを首を巡らせ、雑木林の中を見回して音の出所を探っていると、ポケットの中でスマホが振動した。チェックするとメッセージアプリに着信。アプリで受け取ったのは画像が一枚。
 その画像は雑木林の中に突っ立っている智則を撮影したものだった。
 もう一度、智則は雑木林の中を見回す。

「凛(りん)」

 小さく智則は口の中で呟いた。
 先程は見つけられなかったが、今度は雑木林の奥に人の姿を見とめた。

 ぽつんと据えられた丸太を加工したベンチに、智則をここまで導いた人物が座っている。

 ポケットにスマホを戻し、智則はまた歩き出す。先程までとまるで歩調は変わらない。一分かからずに彼は、自分に画像を送りつけていた人物――凛の前へ辿り着いた。

「やあ」
 少し掠れた声で智則は臨に声をかける。
 凛は足を組んでベンチに座ってスマホを退屈そうに眺め、彼に目もくれない。
「遅刻かな」
「ごめん。そうじゃないんだけど……」
 問いかけられ、凜は暗い溜息を吐いた。
「最近鬱陶しい人がいて」
「ふぅん」
 気のない返事をして、智則は凜の横に腰を下ろした。ベンチは二人で座るために誂えたように二人分の尻を乗せてちょうどいいサイズ感だった。

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