青い薔薇の蜜は恥悦の味

・作

女性限定サロン『ブルー・ローズ』。そのサロンには、女性の秘めた性を解放させる秘密のオプションが存在していた。古賀 (こが) は女性を悦ばせることを使命とするプロフェッショナル。彼は美しい人妻・涼子 (りょうこ) を性の悦びへと導く。

 都内にあるホテルのラウンジで、古賀(こが)はじっと待っていた。
 視線は目の前のテーブルに置かれたスマホに注がれている。そのスマホが振動した。古賀はそっとスマホを取り上げ、着信を確認する。
 短いメッセージが一言だけ。

 ――到着しました。

 古賀は席から立ち、ホテルの入り口できょろきょろと周囲を見回している女性に目を止める。
 白いブラウスにカーディガンを合わせ、ロングスカートという小ざっぱりした印象の出で立ちだ。すらりとした比較的長身の女性である。清潔感のある綺麗な面立ちだ。しかし、微かに俯くような、そんな下を向いた姿勢のせいか全体的に猫背で気弱そうに見えた。
 そんな女性に古賀はゆったりとした足取りで近づいた。相手を決して威嚇しないよう、穏やかで落ち着いた表情をする。

「恐れ入りますが、涼子(りょうこ)様でいらっしゃいますか?」

「は、はい」

「初めまして、セラピストの古賀と申します」

 名乗ってから古賀は慇懃に腰を折った。反対に女性――涼子はあたふたした様子で、ぺこぺこと何度も頭を下げる。

「宜しければ、あちらへ。簡単なヒアリングを行いますので」

「はい」

 緊張からか、ぎくしゃくした動きで涼子は古賀に先導される。

「まず、確認させて頂きたい事項が幾つかございます。他の会員様からのご紹介と伺っておりますが、ご紹介者様のお名前をお教え願えますでしょうか?」

「アスナさんからの紹介です」

 古賀は小さく頷く。アスナという名前は数ある合言葉のひとつだ。

「当サロン『ブルー・ローズ』のオプションの内容については、ご理解頂けていますでしょうか?」

「はい」

 桜色の薄い唇を軽く噛み、涼子は首肯する。
 必要な条項は全て確認した。あとは細かな打ち合わせへと移行して問題ないだろう。そう古賀は判断した。

「細かな内容に関しては、涼子様も人目がある場所でご提案頂くのは抵抗がおありでしょう。個室も用意してありますが、そちらでお伺い致しますか?」

「それは……」

 涼子が口籠る。初対面の男性とホテルの一室に入るのは抵抗があるらしい。
 古賀は、またひとつ頷いた。

「では、今回は初回ですので簡単なヒアリングだけに致しましょう。涼子様の心の準備が整ってから、細かな内容をご相談頂く、という形はいかがでしょうか」

「……」

 涼子はソファの上で体を縮こまらせた。そうすると彼女が豊満な体をしているとよく分かる。膝の上で手を組み、背を丸めるものだから、腕で挟み込む形になってバストが強調されるのだ。

「お気になさらず。涼子様の反応が一般的なものです。そして、何よりも涼子様のご希望に添うことが私の役目なのです」

「あの……」

 一旦は口を開きかけた涼子だったが、また口を閉ざしてしまった。古賀は何も言わず、辛抱強く彼女が言葉を繋ぐのを待つ。
 決して急かさず、相手のペースに合わせ、無意味に否定しない。初めて『オプション』を利用するのであれば尚更だ。貞淑に生きてきた人妻であればあるほど、決心がつくまで時間がかかることを古賀は経験上知っている。

「今日……お話をして、いつしてもらえるんでしょうか?」

「涼子様が望まれるタイミングです。最短であれば本日中に。後日であれば、涼子様からご予約を頂いた日時に望まれる場所で」

 また涼子は沈黙する。
 彼女は内心の迷いが顔に出易いタイプらしく、鳶色の瞳が忙しなく動き回っていた。

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感想・レビュー

1件

青い薔薇の蜜は恥悦の味 へのコメント一覧

  • どこでこのオプション頼めるのでしょうか?

    フィクションかぁあーとがっくり項垂れてしまうほど、どこに行けば古賀さんに会えるの?と期待してしまうほどツボでした。作者様は、この世界のどこかにいて欲しい人々を産み出す魔人ですね!

    1

    魚月 さん 2021年2月24日

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