あなたしか映らない (Page 2)

 従業員通から利用客が使う通路へ出て、空っぽになった204号室へ移動する。
 204号室の室内には男女が交わっていた臭いが強く残っていた。その臭いを逃がすため換気扇を回し、窓を開け放つ。冷たい夜気がどっと流れ込み、室内を攪拌する。

 ゴミを全て回収し、風呂掃除をして、備品を補充し、最後にベッドメイクをこなす。次に何をするかと考えることもなく、ルーティンをこなすように清掃を終え、泰輔は204号室を後にする。
 後ろ手に扉を閉めると自動で錠が落ちた。

 これでひと仕事終わりである。

 照明の暗さで古さを誤魔化している客用通路から、隠そうともしない業員通路へ。リネン室で掃除道具を定位置に戻して交換したリネンをクリーニング用の袋へ入れた。そして、フロント兼待機室へと泰輔は舞い戻る。

「お疲れ様。相変わらず早いね」
 泰輔を送り出した女性がそんなことを言いながら出迎えてくれた。
「あざっす」
 やる気のない返事をして、彼は定位置へ腰を落ち着ける。

「あとのお客さんは全部宿泊だからね」
「了解っす」
 つまりシフトが終わる早朝六時まで五時間半ぐらいは暇ということだ。ひと眠りしてもいいし、スマホでだらだらと情報を浴びていてもいい。

「コーヒーでも、どう?」
「……あー、飲みます」
 少し迷った彼の返事を聞いて女性はにっこりと笑い、立ち上がった。

 椅子から立つと女性の背が存外高いたことが分かる。男性顔負けの長身で顔立ちも整っているので、一緒に歩く男は気後れしそうだな、といつも泰輔は思う。古臭いラブホテルのフロント係などではなく、モデルと自己紹介された方がしっくりくるだろう。

 そんなことを考えられているとは露知らず、茶渋で赤茶けたマグカップにインスタントコーヒーを振り入れていた。
 彼女の後姿は女性的な肉感には、少々乏しい。どちらかといえば痩せ型で長身なことも相まって縦に長い印象だ。貧相ではないのだが、全体的に慎ましやかな円やかさである。

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