あなたしか映らない (Page 6)

「でるっ。出るっ、出したいっす! 波奈さんっ」
「いいよぉっ、出してぇ。一番奥に出してっ」
 間近で目と目が合う。
 泰輔は波奈の美しい瞳の中へ自分が写っていることに気付いた。
 それが最後の一押しだった。

「波奈さんっ」
「あああぁぁっ」
 ぎゅっと全身を強張らせ、波奈が達する。手を放される直前の弦のようだった膣肉は、解き放たれ妖しく蠢いて男を射精させた。
 二度目の射精は一度目よりも濃く、そして長かった。

「ああ、……まだ出る」
 恍惚とした表情で波奈が譫言のようにしみじみと呟く。
 一方の泰輔は全身の力が男根の先端から抜けていくような虚脱感と、大きすぎる快感を持て余し、息を詰まらせていた。それがひと段落し、ようよう呼吸を再開して彼は波奈の上へ崩れ落ちる。

「いっぱい出てたね」
「もう出ねぇっす」
 ふふ、と柔らかく笑い波奈が自分に覆い被さっている泰輔の髪を撫ぜた。
 コチ、コチ、と安物の時計が秒針を動かしている音だけが二人の荒い呼吸の音に混じる。
 ここが職場だということを忘れてしまいそうな時間が、じんわりと過ぎていく。

「――っす」
「え?」
「責任取るっす。中に出しちゃったし」
「嬉しいけど、今日は一応安全日だから」
「はぁ、そうなんすか」
「でも、100%じゃないから」
「どこに就職しようかな」

「ウチなんかどう?」
「どこっすか」
「ここが一号店なんだけど、3号店まであるから、社員なら大歓迎」
「えっ、なんすか、それ」
「あれ、知らなかった?」
「っていうか、波奈さんにそんなこと決められないでしょ」
「縁故採用もアリじゃない?」
「どうやって」
「オーナー権限?」

「はぁっ!?」

「これも言ってなかったっけ?」
「オーナーなんすか?」
「そうよ。おばあちゃんから相続したの」
「フリーターだと思ってたっすよ」
「オーナー様に手を出すような悪いバイト君には、どうやって責任を取ってもらおうかな」
「真面目に授業出て経営勉強するっす」
「そんな勉強してたんだ」
 今度は波奈が驚く番だった。

「なんちゃって経営学部っす」
「なんたが、私達お互いのこと、全然知らないね」
「いいんすよ。ネタバレされたもんほど、つまんないんすから」
「いのかなぁ。……まあ、いっかぁ」
「ああ、まあ、なんといいますか。オーナー様」
 泰輔は波奈の上から退くと、床の上に正座して真面目な顔になった。
「責任取らせてください」
 同じく波奈も正座し、真面目腐って返答する。
「末永くよろしくお願いします」
 真面目な顔のままお互いに黙り込む。

 カチコチ、と安物の時計が間を埋めるように音を立てて秒針を動かす。
 一秒、二秒、……――。

「くふっ」
「あははっ」
 堪え切れず、二人の顔が笑顔に変わる。
 泰輔が美しいと思った瞳にも、彼自身の瞳にもお互いだけが映っていた。

(了)

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