青い薔薇は拙い恋の夢を見る (Page 2)

 時折休憩を挟みつつ、二人は藪を切り拓き、ついにかつての集落らしき地点に辿り着いた。だが、建物の殆どは植物に呑まれ、原形を留めていない。

「ここから探すんですか」

「そういう依頼だからね」

 げんなりした京太郎を余所に知花は楽し気に瞳を煌めかせる。

 廃屋を探索する際の注意を聞かされ、京太郎は知花と別れて原形を留めている幾つかの廃屋を調査することになった。

 外観をチェックし、崩落の危険がないのは彼が任されたものの中で一件しかなかった。それでもおっかなびっくり京太郎は、内部に足を踏み入れる。中がどんな状況なのか、外からは分からない部分もあるのだ。

「おじゃましまーす」

 ついつい京太郎は口の中でそう言った。誰もいないと分かっていても、他人の家に侵入いる居心地の悪さがある。

 大まかな形は保っていたが内部はかなり荒れていた。殆どの床が抜け落ちており、地面が見えている。家の土台とそれを支える木材が遺骨めいて京太郎を迎える。

 それでも彼は意を決して足を進め、生活の痕跡を探し回った。見つけられたのは絵皿が一枚。あとのものは損傷が激しく、完全な形では現存していなかった。彼は絵皿を専用のケースに仕舞い、慎重に廃屋を出る。

「なにかあった?」

 外には既に手ぶら知花が待っており、収穫がなかったのだと察せられた。

「これだけですね」

「絵皿か。凄い価値のあるものではないけど、この辺りで生産されていたものね」

「分かるんですか?」

「下調べはしてきたから」

 そう言われてよく観察すれば、その絵皿には土産物とは違う素朴さと生活感が滲んでいるような気がした。

「これ以上は収穫もなさそうだし、帰りましょう」

 行きの半分位以下の時間で車に辿り着き、行きと同じぐらい強烈に揺られて舗装路まで帰り着いた。そして、同じように京太郎は吐いた。

 彼が落ち着いてから、町へと知花は車を走らせる。

 舗装された道がこれほど有難いとは。京太郎は年度末に道路をほじくり返して渋滞しても許せる気がしてきた。道路を良好な状態に保つために必要なことなのだ。

 法定速度を守って走る車に安堵し、京太郎はシートに背中を預ける。道なき道を走る場合はしっかり踏ん張っていないと、天井に頭を何度でもぶつけるのだ。

「今回は思ったよりも早く終わったから、どこかで休んでいこうか」

「泊まりってことですか」

「そう。おかげでテントで寝なくて済んだしね」

 気楽に言ってくれるが、京太郎は背筋を再び冷たくしていた。廃村でキャンプをするなんて悪趣味にも程がある。ホラー映画だったら確実に殺されるだろう。

「近場に良い温泉宿があってね。瀬戸くんが教えてくれた」

 誰だ瀬戸って、と思った。だが、口には出さす、京太郎は素直に喜んでおくことにした。

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