箱詰めの天国 (Page 6)
先に呼吸を整えたのは男の方だった。
「風呂を沸かしてきます」
男の肩へ頭を乗せ気だるい余韻を味わっていた女は、情緒もなにもない男の声に顔を上げる。その顔にはありありと不満が表れていた。
だが、男は意に介さず立ち上がる。
「汗が冷えますから」
すたすたと去っていく男の背を見つめ、女はやれやれと苦笑するしかない。
汗と精液に塗れた体を一瞥し、彼女は足元に脱ぎ散らかした自分の服を拾い集める。そして、ズボンを拾い上げた時、ポケットの中に入れっぱなしにしたものがあったことを思い出した。
彼女がポケットから取り出したのは、小さな人形。男女一組のその人形は、ちょうど男が作っていたミニチュアにぴったりのサイズだ。
「いつも人がいないからね」
そっと人形をできたばかりのミニチュアの中へ女は置いた。たったそれだけのことで小さく再現された空間の物寂しさが薄れる。
空間の占有率が変わったためか、あるいはその人形が手を繋いだ男女一対の人形であったからなのか。
「題して、箱詰めの天国、かな」
女は設置した人形に自分達の幻影を透かし見て笑うのだった。
(了)
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