恥ずかしがり屋の俺たち

・作

修学旅行の夜、俺は生徒の双木が泣いているのを見つけた。担任として放っておけず、言いにくそうにしている双木から話を聞くと、クラスメイトと風呂に入った時に自分には乳首がないと気づいて悩んで泣いていたと言う。乳首がない人間なんかいないと言うと、双木は自分の胸を見せてきて……。

「なんとか問題なく終わったな」

 教師になって初めて担任での修学旅行の引率。不安だったが、問題なく初日を終えられそうだった。

 見回りを終え、部屋に戻ろうとした俺は足を止めた。
 階段の方から泣き声が聞こえる。まさか幽霊かとビクビクしながら見ると、うちの学校のジャージを着た人物が階段の隅でうつむいて泣いていた。

「おい、どうした?」

 声をかけると、泣いていた人物が顔を上げた。俺の受け持つクラスの生徒の双木だった。

「石井先生……ふえ、うえええん……」

 双木が子供のように泣き始め、俺はあわてて言った。

「とにかく、ここじゃなんだから、俺の部屋へ行こう」

 自販機で買ってきたお茶を飲むと、双木は少し落ち着いたようだった。
 小さな和室が今夜の俺の部屋だ。生徒を連れ込むのは問題かもしれないが、仕方ない。

「それで、何があったんだ?」

「私……他の人と違うの」

「違う? 何が?」

 俺が訊くと、双木がもじもじし始めた。
 いつもよく笑って、よくしゃべっている双木にしては珍しい。ふわふわの肩までの髪をいじって言いにくそうにしている。

「言ってくれないと分からないぞ」

「あの……私……」

「うん?」

「ち……乳首が、ないの!」

 部屋の中の空気が凍った。

「えっと……何だって?」

「乳首が、ないの……」

 聞き間違いじゃなかったのか。

「いや、ないわけないだろ」

「でも、ないんだもん! みんなとお風呂に入った時に、私だけ乳首がないって気づいて……」

 双木の瞳がうるうる潤んだ。

「どうしよう、私、お嫁に行けない……」

「大丈夫、何かの勘違いだよ。乳首がない人間なんかいないから」

 すると双木はキッと俺を睨んできた。

「本当にないんだもん! ほら!」

 ジャージのファスナーを下ろし、Tシャツをたくし上げる。ブラジャーをぐいっと下げ、たゆんと豊かな胸がこぼれた。

「えっこら、おい……って、これは……」

 俺は顔を寄せて凝視した。
 胸の先端には桃色の乳輪があり、その中心には横筋があるだけで乳首は見えない。

「陥没乳首か……見るのは初めてだな」

「かんぼつ……?」

「埋まっているだけで、乳首はある。とにかく服を戻せ」

「でもでもっ本当はないかもしれないじゃない」

「心配なら医者に診てもらえばいいだろう」

「珍しいって標本か実験対象にされたらどうするの、先生責任取ってくれるの?」

「ならないよ、大丈夫だから」

「えー……石井先生は生徒が可愛くないんだ、見捨てるんだ。色んな人にいっぱい言いつけてやるんだから!」

「お前、いい加減にしろよ」

 双木はジト目で唇を尖らせている。
 あることないこと言いふらしそうだ。それに俺も教師である前に男だ、胸丸出しの姿を見せられてムラムラしないわけがない。

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