青い薔薇の蜜は恥悦の味 (Page 2)
「涼子様」
古賀はあえて涼子の葛藤に水を差す。このタイプは自分の中で考え過ぎて、自滅する。一旦熱を冷ましてやり、冷静に判断してもらわなくてはならない。途中でオプションを取りやめることも、また彼女の権利なのだから。
「はいっ」
裏返った声で涼子が返事をする。自分の内面に没頭しやすい人間だと、この反応からも分かる。
「宜しければ、場所を移しませんか? あのカフェ」
そう言って古賀はホテルの中にあるカフェを指さした。テナントではなく、ホテルが運営しているカフェで人と物の質が高い。
「あのカフェにあるチョコレートケーキが絶品なのです。私はこのホテルに来ると、どうしても食べてしまいまして……」
ぽかんとした表情で涼子は古賀を見る。小さく開いた桜色の薄い唇の奥には赤い舌がちらりと覗いていた。
「もし、涼子様が宜しければご一緒願えませんでしょうか? 男性一人でチョコレートケーキを食べるのは、気恥ずかしいものなのです」
微かに涼子の表情が柔らかくなる。
古賀も恥ずかし気に少しだけ笑う。その様子に一段と涼子の顔が和らいだ。
二人は連れ立ってカフェへと向かった。相変わらず彼女は猫背気味だが、それでも緊張は薄れているように古賀には見受けられる。
カフェは広々としており、カウンター席以外は適度に仕切られていた。閉塞感はないが、かといって周囲の視線に晒される程ではない。BGMも品が良く、ゆったりと寛げる空間をカフェ全体で演出している。
二人はスタッフに案内され、奥まったソファ席に案内された。
古賀は、甘いものは目がなくて、とコーヒーと件のチョコレートケーキをオーダーする。涼子も同じものを選んだ。
しばらくして、二人の前にオーダーしたものがそれぞれ揃う。古賀はコーヒーに砂糖だけ入れ、一口だけ飲んだ。それからじっくりとチョコレートケーキを鑑賞する。
艶やかな黒は涼子の髪色と同じだ。ただ、彼女の髪の方が光を呑むような深い色合いである。
「わぁ」
一方の涼子はケーキを前に子どものようにな歓声を小さく上げる。すぐ我に返って恥ずかしそうにしたが、彼女の目はケーキに釘付けになったままだ。
そんな彼女へ微笑み、古賀は事前に目を通した資料の正確さに感謝していた。甘いもの、特にチョコレートを好む涼子の嗜好だけでなく、その他の細々とした情報を彼は手にしている。
元を質せば涼子自身が望んでこの場にいるのだが、それでも事前の調査はかなり綿密に行われていた。彼女が入会したサロンのオプション自体が機密性の高いものであることも理由の一つだ。利用者を装った害虫の混入は決して許されない。
それからの古賀はゆっくりと時間を使って涼子の緊張を解し、信頼を得ることに注力する。
彼女の方も次第に初対面の男性相手への強張りをなくし始めた。自然に笑うようになり、緊張に強張った顔よりもずっと魅力的である。涼子の笑顔には人の目を惹き付ける力があった。
どこでこのオプション頼めるのでしょうか?
フィクションかぁあーとがっくり項垂れてしまうほど、どこに行けば古賀さんに会えるの?と期待してしまうほどツボでした。作者様は、この世界のどこかにいて欲しい人々を産み出す魔人ですね!
魚月 さん 2021年2月24日