青い薔薇の蜜は恥悦の味 (Page 8)
「お疲れ様です」
先程のスタッフが声をかけてくる。
「いつもありがとう。助かっているよ」
「恐れ入ります。オーナーによろしくお伝えください」
「これをお願いできるかな」
「かしこまりました」
品物を渡し、会計を済ませたタイミングでよろよろと涼子が更衣室から姿を現した。
すっかり快楽の波は引き、落ち着いた表情をしている。
「涼子様。宜しければ、これをお持ち帰りくださいませんか?」
「えっ、これ」
反射的に紙袋を受け取り、涼子が目を丸くする。それからすぐに古賀に向かって返そうとした。
「いただけません、こんな高そうな服」
「涼子様」
じっと古賀は彼女の目を見つめた。
「涼子様は身長がお高くいらっしゃいます。それにプロポーションも素晴らしい。この服を着てぜひ旦那様とデートをなさってください。旦那様は、きっと涼子様の魅力にもう一度恋に落ちてしまわれますよ」
そっと紙袋の把手を古賀は涼子に握らせる。
「背筋を伸ばしてください。あなたは美しい。たったそれだけのことで、世の男性は旦那様を羨み嫉妬するはずですよ」
自信を持ってください。
古賀はそう言って、恐縮しきりの涼子と別れた。
大通りで彼女の後姿が見えなくなるまで見送り、それから『ブルー・ローズ』のオーナーへ連絡をする。
「お疲れ様」
開口一番、オーナーはそう言った。女性の声だ。若いようにも、熟れたようにも聞こえる不思議な声音の人物である。
「ご覧だったのですか?」
「まさか。そんな下卑た真似はしないわ」
「失礼致しました」
「うふふ、いいのよ。ところで涼子さんには満足して頂けたかしら?」
「恐らく」
古賀はデパートの外壁に背中を預け、道行く人を流し見ながら言葉を接いだ。
「あの方は少し自分に自信がなかっただけでしょう。だから思い切ったことをして、ほんの少し誰が背中を押して差し上げれば、それて良かった」
「……あなたに任せて良かったわ、古賀」
「恐れ入ります」
満足そうなオーナーの声に古賀は慇懃に返す。
それから二人は次の仕事についてやり取りし、通話を終えた。
ポケットにスマホを入れ、歩き出した古賀は雑踏に紛れる。
女性限定サロン『ブルー・ローズ』。
そのサロンは会員の悩みを相互扶助することで解決へ導くことを目的としている。
中でも性についての問題を解決することを主眼とした裏のオプションがあった。
そのオプションで超一流といわれるセラピスト――それが古賀である。
(了)
どこでこのオプション頼めるのでしょうか?
フィクションかぁあーとがっくり項垂れてしまうほど、どこに行けば古賀さんに会えるの?と期待してしまうほどツボでした。作者様は、この世界のどこかにいて欲しい人々を産み出す魔人ですね!
魚月 さん 2021年2月24日