いつかまた行けたら

・作

行きつけのマッサージ店で憲和(のりかず)は、施術の最中に仕事の疲れから眠ってしまう。目覚めた憲和の膨らんだ股間を見た店主である眞弓(まゆみ)は意外な反応を見せ……。
 夢幻のような一夜の出来事は二人に何をもたらすのか。

行きつけの店がある。

 憲和(のりかず)は食事や買い物では特にこだわりなく店を利用しているが、マッサージだけは別だった。
 月に一度か、二度、仕事の疲れが溜まってどうしようもなくなった時にだけ利用する、とっておきのマッサージ店があるのである。

 自宅の最寄りのひとつ前で下車し、駅前にある繁華街の賑わいから脱出して、住宅街へと入っていく。古い町並みの残っている辺りで、しんと静まった夜の道を何度か折れ曲がり、小さな公園へと足を向ける。
 その公園を抜けた先の行き止まり。その一番奥に憲和が行きつけにしているマッサージ店はひっそりと営業していた。

 店構えはなんと言うことのない民家然としている。

 オレンジ色の門燈が灯る、その奥にある玄関の脇に小さな看板が置かれていた。看板には開店している旨を告げる文言が密やかな筆致で記されている。

 憲和は背の低い鉄扉を押し開け、飛び石の上を歩いて玄関へと到達した。
 古い型の呼び鈴を押すと、奥から人の気配が近づいてくる。

「いらっしゃいませ」

 玄関の引き戸を開けたのは、一人の美しい女性だった。
 セミロングの髪を一つにまとめ、柔和な微笑みを浮かべている。
 身に纏っているのは半袖スクラブで、上下ともに白に統一されたパンツスタイルには清潔感が漂っていた。細身のシルエットだが、女性らしい体のラインはある程度隠れ、職業人としての凛とした佇まいがある。

 女性に導かれて憲和は革靴を脱ぎ、家へと上がった。
 絞られた輪郭を溶かすような淡い光が廊下に二人の影を落とす。
 蝋燭のもたらす明かりのように眩くはあっても強くはない。そんな光の中を歩いていると、この家の内部だけ特別な時間が流れているかのように錯覚できる。

 襖によって隔てられた廊下を歩いた先に、憲和がいつも通される部屋があった。
「どうぞ」
 襖を開けて中へと促される。

 室内には真ん中に大人の腰の高さ程度の寝台が据えられていた。寝台といっても柔らかなマットレスが敷かれているわけではない。どちらかといえば、病院に設置されている診察台のような代物だ。

「お召し物をお預かりします」
 言われるがまま憲和は背広の上着を女性に渡し、鞄を部屋の隅にある籐の荷物置きへと収めた。さらに靴下も脱いで同じように荷物置きへと入れてしまう。

 それから勝手知ったる動きで、憲和は寝台の上へと仰向けになった。
 寝台としては少々固く安眠できる代物ではないが、憲和は仕事の疲れからか横になっただけで、ついうとうとしてしまう。

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