いつかまた行けたら (Page 5)
男を誘う淫靡な果実に憲和はむしゃぶりつく。自らの腰の動きに合わせて前後に揺れる果実の頂点で色付いている乳首を吸う。赤子のような行動ではあるが、眞弓に与えられるのは母性本能を満たすものではなく、生殖本能を刺激する過激な火花であった。
汗ばむ眞弓の肌は手に吸い付くようで、憲和はその感触を全身で味わいたくなる。ワイシャツを脱ぎ捨て、さらに眞弓が身に着けているものもすっかり取り払ってしまう。
全裸になった二人は深く交合し、結合部は白濁した愛液を纏わりつかせた男根がピストン運動を繰り返す。
全身が性感帯と成り果てたように触れ合うだけで、止めどなく脳内を快感が飛び交う。飛び火する悦楽が肌を、視線すら介して獣のように貪り合う二人の間を行き交っていた。
かっちりと抱き合い、僅かな隙間すらなくして憲和と眞弓は同調して頂きを目指す。
汗でぬめる肌。
鼻腔を刺激する発情した雌の匂い。
膣肉を掻き分け、子宮口を押し潰す感触。
体の端から快感で溶けて、混ざり合うように二人は同時に達した。
「ああぁ、イク、あぁ、イくぅ! あ、あ、あ、出してっ、奥に出して、ああぁぁぁ!」
眞弓の膣がぎゅっと締まり、獣じみた声を上げる。
「おおおおっ!」
憲和も呼応し、咆哮する。
どくどくと淫茎が脈打ち、倍にも膨らんだように錯覚する。そして装填された銃弾を解き放つが如く、憲和は射精した。
視界が白から黒へと暗転するような、文字通り精力を振り絞った吐精であった。
喘鳴し、二人はぐったりと寝台の上で絡み合ったまま時間を過ごした。そして、夜半を過ぎ、ついに朝日が地平から顔を覗かせた頃合いになって、のろのろと体を起こした。
二人は狭い風呂場を共有し、朝食を共にする。
だが、どちらも口を開かない。
白々とした朝日の這入り込む食卓に眞弓を残して憲和は立ち上がった。
向かうのは昨夜招かれた玄関である。その途中、彼は濃い線香の匂いを嗅ぎ、足を止めた。背後に眞弓がいないことを確認し、そっと襖を開けるとそこには小さな仏壇があり、位牌だけが祀られている。遺影はない。
再び彼は襖を閉ざし、玄関へ向かい、今度こそ家を出た。
それから忙しさに揉まれ、眞弓の所へ向かうことすら難しい日々が続いた。
なんとか仕事を切り上げ、彼女の元へ向かったのは体を重ねてから二週間は経過した頃である。どの面を下げてと思い、足取りは重たいが、それでも眞弓の元へ憲和の体は向かう。
だが――
門扉は閉ざされ、施錠されていた。
門燈は暗いままである。看板もない。
暗がりに目を凝らすと、玄関には「売家」と素っ気ないプラスチックの札がぶら下げられていた。
それ以来、眞弓とは会っていない。
未練が憲和の肌を掻くような夜もある。
いつかまた、彼女の傍へ行けたら。
そんな夢想を抱え、彼は今も一人の夜を過ごしている。
(了)
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