陽炎 (Page 6)

「行きましょう」
「えっ?」
「僕といきましょう」
 行きましょうと言いたかったのか、あるいは生きましょうと言いたかったのか、清一朗自身も判然とせぬまま言い放っていた。

 どちらにせよ、彼は清子に駆け落ちを持ちかけていた。

 学生の分際で、と自分で思わないでもない。だが、この機を逃せば、きっと生涯に意味はないとまで清一朗は決意を固めていた。
「ふふっ」
 ふわりと真夏の涼風のように清子が笑う。
「嬉しい」
 きゅっと清子は清一朗の手を握る。
 何処へ、とは彼女は問わないでいてくれた。

 着の身着のままで清子は木戸を潜り、清一朗の隣に立つ。
 手をきつく握り合い、二人は夜の街路を歩き始める。
 まずは自宅へ帰って有り金と荷物を持とうと頭の中で清一朗が勘定していると、不意に清子が足を止めた。

「行きたいところがあるの」

 言外にここには戻れぬから、と訴えられた気がして清一朗は首を縦に振る。

 暗い夜道を清子に手を引かれ、辿り着いたのは小さなお社だった。周囲は森に囲まれ、境内は整えられているが、参拝者が殊更多いという雰囲気はない。
「ここで友達と遊んで、……一人で泣いたこともあったの」
 彼女にとって思い出の詰まった場所なのだろう。

 清一朗は清子の気が済むまで付き合うことにした。駆け落ちをするのなら、急いで離れる方が良い。だが、全てを捨てることになるのだから、感傷に浸る時間ぐらいは必要なはずだ。

「清一朗さん」
 周囲をじっと見つめていた清子が不意に彼に抱き着いた。
 浴衣の薄い布地越しに清子の体温を感じる。
 ごくんと清一朗の喉仏が上下した。
 体温だけでなく清子の体の隆起を生々しく感じ、清一朗は下半身に血が集まっていくのを自覚する。
「清子さん」
 彼の胸へ顔を埋めていた清子が濡れた瞳で見上げた。

 二人の唇が再び重なる。今度の口付けは長い。唇の弾力を楽しみ、割れた唇の合間から伸びた舌が先端を絡め合った。我慢できず、清一朗は清子の体を弄る。背中、尻、脚、胸を欲望のままに揉みしだく。

「あぁ」
 吐息を伴った声が清子の口から零れ、乱れた裾から白い足が伸びた。その足の付け根へと清一朗の手が忍び込む。下着の感触はない。肌は既に情欲の火で熱くなっていた。

「あぅっ」
 直に触れた清子の秘所は湿り気を帯びている。汗ではなく、独特のぬめりを伴った愛蜜であった。ぬちぬちと淫音が股の間から聞こえて、彼女は恥ずかしげに清一朗の胸へ顔を埋める。
 その仕草が愛らしく、彼は尻肉を揉みしだいていた手を背中に回して抱き締めてしまう。
 媚肉を解す清一朗の指先が割れ目を幾度も往復し、陰核を摘まんだ。びくっと肩を跳ね上げ、すぐに清子はわなわなと体全体を震わせる。やがてその震えも収まり、ぐったりと清子は清一朗の腕に身を任せた。

 我慢の限界が近い清一朗はぐったりした清子を抱きかかえ、お社へ近寄る。鍵の類はないらしく、外部と内部を隔てる戸が簡単に開いてしまう。

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