幽世にて出会い、契る二人の先行きは (Page 2)

 思い出して見下ろすと、寝間着のままだった。寝る時にはナイトブラなども着けない派の蓉子は、自分がやたらと無防備な状態で男性の傍にいることを自覚する。

 だが、不思議と羞恥心は湧かない。

「聞かないんですか? どうやって来たのかとか、どうしてとか」

 ふと疑問に思って蓉子はそんなことを訊ねてみた。

「話したいのか」

「あー、うん。どうですかね」

「己でも分からぬのか」

「分かんないっすね」

 蓉子は、ばたん、と上体を縁側に投げ出す。

 染み一つない天井板が目に入った。

 ぼーっとしていると男が顔を覗き込んでくる。

「なんすか」

「俺と夫婦になるか」

「はぁ?」

 素っ頓狂な声を上げ、蓉子はまじまじと男の顔を見た。穴が開くほど見つめるが、男の表情は毛筋ほども動かない。

「お前が、此処にずっと居ると言うのなら、俺と夫婦になるか」

「いや、話がぜんっぜん繋がってないんですけど」

「俺は、俺の名すら思い出せぬ。ただ此処に在り、片割れを待っている」

「はぁ……」

「ならば片割れは俺でない者が良い」

 それは、そうだ自分と結婚はできない。

 男の言葉に微妙な矛盾を感じながらも、蓉子は首肯した。

「お前が此処に在り、去らぬと言うのなら俺と夫婦になるか」

「すげー強引っすね」

 寝っ転がったまま蓉子は、ほんの少しだけ考えて答えを口にした。

「いいっすよ、結婚しちゃいましょうか」

 一度は死んだ身。

 そんな気分だった。結婚に対して良いイメージは欠片もない。なにしろ実父に殺されかけている。幸せな円満家庭など、フィクションの中でしか蓉子は知らない。

 両親はあくせく働き、蓉子はずっとほったらかしだった。決して広いとはいえない自宅で、彼女は殆どの時間を一人で過ごしていたのだ。そのことを寂しいとも何とも思わないで、ずっと生きてきた。

 男の言う夫婦になれば、心境の変化があるだろうか。

 経験してみればわかるか、と蓉子は気楽に考える。

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