幽世にて出会い、契る二人の先行きは (Page 3)
「うむ」
男は蓉子の内心など露知らず、満足気に頷く。
「契りを結ぶぞ」
「ちきりってなん――」
唐突に口付けをされ、言葉を中断された蓉子は目を白黒させる。間近に男の顔があり、じぃっと彼女の目を覗き込んでいた。
驚いているうちに蓉子の唇を割って、男の舌先が口腔へと侵入してくる。唇の裏側や歯茎を舐られ、舌を丹念に愛撫された。
「んくっ、ふぅん」
変な声が喉の奥から溢れた。誰の声かと驚いたが、蓉子自身の声だった。
ばしばしと男の胸を叩き、抗議すると男の顔が離れる。
「きゅ、急すぎでしょ、さすがに」
「そうか」
男はしばし考え込み、もう一度宣言をした。
「契りを結ぶぞ」
「そういう意味じゃなくて」
流石の蓉子もツッコんでしまう。
「なんていうか、こう、順序とか、そういうの必要じゃありません?」
「そうなのか」
「いや、わたしも知らないんですけど」
そもそも出会って数時間――だろう。恐らく――の相手と結婚なんぞしているのが、異常といえば異常なのだ。
男は黙り込んでしまう。
蓉子も黙ってしまう。
なんとも言えない空気が両者の間に流れる。
「うむ」
男がまたもや頷いた。
おもむろに立ち上がり、蓉子を抱える。丁寧な所作ではなく、犬猫の子供で運ぶように小脇に抱えられてしまった。
「いや、もうちょっとなんか、丁寧にしてもらえると有難いっす……」
「うむ、分かった」
「え、なんか、違うくない?」
小脇に抱えられた状態から、今度は米俵のように肩に担がれ、蓉子は手足をぶらぶらさせたまま、大人しく運搬されていった。
「寝屋だ。契りは寝屋でするものだ」
「知識がすっごい偏ってる気が……」
寝室以外で求められても困るので、蓉子はそれ以上何も言わない。
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