涙の味は意外と甘い
サラリーマンの瀬戸湊(みなと)は映画館で出会った細川瑠璃(るり)と関係を持っていた。瑠璃の薬指には結婚指輪がはまっていて、触れるたびに自分は浮気相手に過ぎないのだと思い知らされていた。瑠璃の夫がどんな男か、気になって見に行った湊は、近所に住む主婦から思いがけない話を聞かされる。
瀬戸湊が細川瑠璃と初めて出会ったのは映画館だった。映画が始まるまで湊が売店を眺めていると、水音とともに足元に液体が流れてきた。
「え?」
見ると、女性がうずくまっていた。持っていたらしいジュースの紙容器が倒れている。
「大丈夫ですか?」
「……はい……」
女性が顔を上げた。青ざめていても美貌は損なわれていない。少し垂れ目気味の大きな瞳を潤ませ、前髪を伸ばしたミディアムロングの髪が柔らかく顔を彩っている。
女性は黒いワンピースを着ていて、色白の肌によく似合っていた。
壁際の椅子に座らせて、介抱している内に上映時間は過ぎていた。チケット代を無駄にしたがこんな美人と過ごせたならいいかと思えた。
これで終わらせたくない。どう誘おうか考えていると、女性が謝った。
「ごめんなさい、私のせいで」
「気にしないで下さい」
「あの……良ければ、連絡先を交換しませんか?」
その時に女性の左手の薬指に指輪がはまっているのに気づいたが、湊は見ないふりをした。
次に会った時、瑠璃は白いカットソーに青緑のロングスカートという華やかな格好で現れた。 前回見逃した映画を観て、食事し、次回の約束をした。
体を重ねるようになるまで、そう時間はかからなかった。
するのはいつも、ホテルだった。どちらかの家に行った事はない。
ホテルに入って服を脱ぎながら瑠璃が訊いた。
「今日もあの体位なのかしら?」
「嫌だった?」
「いいえ」
スカートを脱いで瑠璃が微笑んだ。
「嫌だったら来ないでしょう?」
湊といる時、瑠璃は嬉しそうに笑う。24歳の湊より二つ年上だったが、子供のように甘えてくる。
「んうっ」
湊は騎乗位が好きだった。相手の女性の重みを感じ、体重で深くまで入れる。女性の乱れる様を見られるのも理由のひとつだった。
湊が突き上げる動きに合わせて瑠璃の体が揺れる。上下に揺れる乳房を支えるようにつかんだ。柔らかく形を変える乳房はいくら揉んでも飽きない。
「あうんっ」
奥を突かれて、瑠璃が涙をこぼした。挿入して突かれると、自然と出てきてしまうらしい。そういう女性がいるらしいと聞いたことはあったが、出会うのは初めてなので最初は焦ったものだった。
湊は指で涙をすくって舐めた。
「しょっぱい」
でもそれは思ったほどしょっぱくなくて、優しい甘さのある味だった。生き物の温かさを感じる。
「ねえ……」
瑠璃が甘えた声を出す。湊は突き上げを強めた。
「あうっああっ」
瑠璃がふとももで湊の腰を締めつける。瑠璃が倒れないように支えながら、湊は中で果てた。
行為が終わると、瑠璃はいつも湊の手を取って自分の頬に当てた。
湊の手の平に頬を寄せて目を閉じる瑠璃はいつも幸せそうだった。
夫の事をそれとなく訊いても、はぐらかされる。浮気している間は夫を思い出したくないのだろうと、深くは聞かなかった。
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