眠り姫に聞こえないように (Page 3)
頭を掻いて、彼も服を脱いで後に続く。短時間で二度風呂をすることになるが、彼は強いて気にしないことにする。
「いつもみたいに、頭から洗って」
「はいはい」
シャワーの前で椅子に座って待っていた絹代に言われ、藤一郎はおざなりに返事を返す。
コックを捻るとすぐさまお湯がシャワーヘッドから飛び出してくる。お湯が出るまで待たなくてはならない彼のアパートとは大違いだった。
半端に伸びた絹代の髪をトリートメントとコンデショナーで洗浄し整えて、綺麗に洗い流す。髪は艶やかさを取り戻して水を滑らかに弾く。
その様子に満足して、藤一郎は息を吐いた。
「終わったよ」
「……体も、洗って」
鼻先からお湯の雫を落とし、彼女は呟くように催促する。
この問答は、毎回繰り返される形式的な儀式めいた代物だ。答えを分かっていながら、お互いの確認のために繰り返す。
黙ったまま藤一郎はボディスポンジに手を伸ばした。そこへお湯とボディソープをゆっくりと丁寧な手付きで馴染ませて泡立てる。絹代は彼の細長い指が規則正しく動く様をじっと見つめていた。
こんもりと泡が出来上がり、藤一郎はそれをそっと絹代の体に乗せる。そして、ケーキでもデコレーションするかのように、全体へと伸ばした。
染み一つない色白な肌を泡が覆っていく。
藤一郎の手がなだらかな肩の稜線を超える。
「んぅ……」
小さく絹代が声を零す。
掌で包み込むようにして、藤一郎は絹代の全身を彼女の背後から洗う。
手から伝わる感触は、初めて彼女に触れた時とあまり変わらないように藤一郎には思えた。
滑らかで引っかかりがなく、自分の体にはない曲線を有した体。
ふと、浴室の中が初めて絹代の、いや女の体に触れた高校時代の小さな彼女の部屋へと戻ってしまったような錯覚を藤一郎は見た。
現在とは違って隙間のあったカーテンの隙間から差し込む夕日と、古いエアコンからの微かな臭気と物音、そして震えていた自分の手に伝わる他人の体温。そういった諸々が湯気を押しのけて目の前に展開され、ボディソープの匂いを遠のかせる。
制服の下へと滑り込ませた彼の手は、どこへ至ったのか。
「あっ」
肩を震わせ、現在の絹代が声を上げた。藤一郎の指先が敏感な双丘の先端に触れたからだった。色素の薄い乳首を泡の中で弄び、少しずつ尖らせる。反対に乳房全体は柔らかく解れ、彼の手に吸い付くように重みを乗せた。
やわやわと乳房を揉んでいた手に泡を乗せ、藤一郎はゆったりした仕草で、それを下ろしていく。あばらの波を超え、落ち窪んだ脇腹を指先でなぞる。
「痩せたね」
「またそれ?」
不満そうに絹代が上気した頬を背後にいる彼に寄せた。
濡れた頬を合わせて、じっと目をお互いに閉じる。
良い話だ……心があったまる
もちち さん 2023年3月11日