肉食獣には敵わない (Page 3)

「どうしたの? 食べたいの?」
「その肉を切り取るために牛や豚がどんな目に遭ってるか考えた事はないのか?」
 むぎが箸を置いた。
「あのね、私が何を食べようと口出ししないでくれる? こっちだって野菜だけじゃなくて肉や魚も食べなさいなんて言わないんだから」
「動物が虐待されてるんだぞ」
「動物が可哀想って言うけど、野菜だって生きてるでしょ」
「野菜は痛いって言わない」
「言えないだけかもしれないじゃない。動く事も恐怖の叫び声を上げる事もできない相手を刈り取ってサラダにして、わあーおいしそうーなんてよく言えるものよね」

「あんた達は動けるし恐怖の叫び声を上げられる相手を殺して食ってるんだぞ」
「だから命に感謝して残さず食べてるわよ。だいたい、野菜を育てるのにも農薬で虫を殺してるし害獣だって駆除してるのに、それは見逃す訳? 都合良すぎない? そんなに可哀想なら熊が出没してる地域に引っ越して熊を保護してあげればいいじゃない、安全な都会でわめいておしゃれなヴィーガン食とやらを楽しんでるだけなの?」
「うるさい!」
 柊也が怒鳴ると、むぎは白けた顔で耳たぶをいじった。

「今度は自分より腕力のない女性という動物を虐待するつもり?」
「もういい、出ていく」
「あらそう、今夜はもう遅いから明日でいいわよ。虐待したって言われたくないから」
「ああ、そうするよ」
 柊也はリビングを出て自分の部屋に入った。イライラしながらスーツを脱ぐ。焼き肉の匂いが体に染みついたようで、余計にイラ立ち、浴室に向かった。

 柊也がシャワーを浴びている間、むぎは稜真に電話していた。
「ケンカしちゃった。出ていくって」
『なんでケンカしちゃうんだよ』
「だってムカつくんだもん」
『分かるけどさ。母さんに柊也をくれぐれもよろしくって言われてるんだよ。むぎとケンカして出ていったって知られたらどう思われるか』
「それはやだ」
 姑と仲が悪くなるのは避けたい。
『嫌だろうけど、仲直りしてくれないか』
「うん……頑張って謝ってみる」
「おう、頑張れ」

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