冴えないおじさん

・作

倫太郎(りんたろう)は背は低く、頭髪も薄い腹が出っ張ってきた中年男。そんな彼は深夜のコンビニで一人の少女に声をかけられる。その少女の狙いは倫太郎から金やクレジットカードを奪う、いわゆる親父狩りだったが……。

「ねえ、おじさん」

 コンビニの前で不意に声をかけられた。
 思わず立ち止まると一人の少女が倫太郎(りんたろう)の前に立ちはだかる。

「あたし、この辺初めてなんだとけど、泊まれる場所とか知らない?」

 倫太郎はすっかり薄くなってしまった頭を掻き、少し考えてから駅前を指さす。

「駅前の方にならあるんじゃないかな」
「えぇー」

 不満そうに少女は倫太郎に詰め寄る。

「それじゃ分かんないよ。せめて案内してよ」

 折角暖めて貰って弁当が冷める。倫太郎はそう思って首を横に振った。だが、少女は彼を睨みつけ、一歩たりとも引く気はない様子だった。

「どうせ家帰って寝るだけでしょ? 案内してよ」

 練る前に飯も食うし、風呂にも入るが、そんなことを言っても意味はないだろう。倫太郎は貧乏籤を引いてしまったことを内心で嘆きながら、少女を伴って歩き出すのだった。

 時刻は深夜に差し掛かろうとしている。昼間はそれなりに人通りがある場所も街灯が寂しく照らすばかりで、空気の唸る音ばかりが耳に入る。
 倫太郎は自分よりも上背のある少女を先導し、靴底の薄くなった革靴の底をぺたぺたと鳴らしながら交差点で立ち止まった。信号が赤に変わったのである。

 ちらりと横目で少女を見ればスマホを弄って、倫太郎に目を向けることすらしない。
 こっそりと溜息を吐き、待っている間に一台も車の通らなかった横断歩道を渡る。渡り終えた辺りで、不意に少女が倫太郎を呼び止める。

「ちょっとストップ」
 素直に立ち止まり、倫太郎は駅の方角を指さす。

「もう少しだよ」
「いや、もういいから」

 不思議に思って倫太郎が振り返った先には少女だけでなく、大柄な少年達が数人集まっていた。明らかに素行の悪い連中だ。

「ありゃあ」

 間の抜けた声を上げた倫太郎を見て、少年達が嗤う。少女も嗤っていた。
 笑っていないのは倫太郎だけだ。

「ハゲ、金とスマホ、カードも全部出せ」
「人に物を頼む態度じゃないね、君ら」

 嘆息し、最近の若い者は、と倫太郎は大げさに頭を振る。
 それを見た少年達の一人が金属バットを倫太郎に向けて振るう。手加減などないフルスイングだ。当たれば良くても大けがをするだろうし、悪ければ死ぬ。だが、少年はそんなことなどお構いなしだ。

 一方の倫太郎はやれやれと間合いを詰め、バットを振る少年の喉を突いた。もちろん素手である。だが、金属バットを持っていた少年は、その一撃で地面に倒れ動かなくなってしまった。

「人を殺そうっていうんだから、死んでも文句は言えないよね」

 少年達の思考はすっかり停止している。
 反撃されるとは考えもしなかったのだ。ハゲでチビのおっさんに、まさか殺されるなんて欠片も想像していなかった。
 倫太郎は次に手近にいた少年の膝をへし折る。そして、悲鳴が上がるよりも早く、その少年の髪を掴んで喉に膝を打ち込む。

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