散歩には秘密がつきもの

・作

四十路のフリーライター成竹(なりたけ)は、行きつけの整骨院の美人整復師・富田(とみた)と肉体関係にあった。肉体関係といっても少々刺激的な散歩付きで、お互いにとってセックスを楽しむだけの気楽な関係。いつもの散歩に成竹は普段と違った趣向を凝らして楽しむことに……。

緩やかな坂を上り切り、背後を振り返ると町が一望できた。
 鉄道を中心にビルが立ち並び、離れるにつれて少しずつ商業施設が減ってマンションが増える。そして、さらに離れると少しずつ建物の背丈が低くなって、戸建ての家が同じ顔をそこかしこに並べていた。

 成竹(なるたけ)が暮らしているマンションも眼下にある。掌に乗ってしまいそうなサイズになったマンションを見下ろすと、自分の生活がいかにちっぽけで、些末なものなのか目の当たりにする心持ちになった。

 無精髭の生えた顎をなぞり、神妙な面持ちになった成竹は町の営みに背を向ける。

 冷たい風に背中を丸め、底の擦り減ったスニーカーを、さらに削るように成竹は足を引き摺って歩く。
 冷たい風が吹く季節になると、膝の古傷が痛む。

 子供の頃の交通事故が原因で彼はあまり足がよくない。そのせいもあって色々とからかわれたりしたが、そういった連中に舐められないように格闘技に打ち込んだ時代もあったものである。
 若気の至り、ともいえた。しかし、それが成竹のバックボーンとなり、卑屈な生き方をしなくて済んだのは少々皮肉ではある。

 とはいえ、四十路ともなった今では痛みが堪えた。

 待ち合わせ場所まで、まだ距離がある。
 歩くペースを落とし、足に負担をかけないよう成竹は黙々と歩いた。路地へ入り込み、新しい戸建てと古い戸建てが入り混じった辻を幾度も曲がる。新旧が入り混じった舗装路は、あちこちで濃淡も斑に東西へ走っていた。

 そうこうする内に、成竹は猫の額ほどの広さの空き地に辿り着く。
 取りこぼしのようなその空き地は、細い路地が交差する奥地にあり、開発をしようにも重機を入れられる道幅はありそうもない。それ故に手つかずになっているのか、それとも頑固な地権者でもいるのか、成竹には知る由も調べる気もなかった。

 空き地に入り込み、成竹は古ぼけたブロック塀に背中を預ける。ジャケットの背中が汚れるが、安物なので気にも留めない。
 待ち合わせの相手が現れるまで煙草を、とポケットに手を突っ込んで成竹は天を仰ぐ。
 ポケットの定位置に煙草が入っていなかったのだ。禁煙を始めていたことをすっかり忘れていた。

 舌打ちをする気力もなく、ジャケットのポケットに手を入れて成竹は空を眺める。
 正午を過ぎたばかりの空は青いばかりでのっぺりとしていた。

「お待たせしました」
 陶の鈴が鳴るような可愛げのある声をかけられ、成竹は視線を向けた。
「大して待ってないよ」
 答えた成竹の声がしわがれているのは、酒と煙草のせいだ。

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