散歩には秘密がつきもの (Page 2)

 ブロック塀から背中を離し、成竹は待ち合わせ相手に歩み寄った。
「痛みますか?」
「多少ね」
 体のことでこの相手に隠し事はできない、と成竹は苦笑するしかない。

 待ち合わせの相手は、彼が通っている整骨院で施術をしてくれている。そのため、体の調子には敏感に反応するのだ。
 その鋭敏な観察眼と確かな施術の腕前、なによりも可愛げと親しみのある美人に診てもらえると整骨院は賑わっている。

「先生に隠し事はできないな」
「やめてくださいよ、先生なんて」

 今度は相手が苦笑する番だった。
 整復師として整骨院を開業したばかりの頃からの常連でもある成竹とは、付き合いが長い。それに現在の商売繁盛の一因は、成竹の助力もあってのことだと彼女は考えているのだろう。

「成竹さんこそ、ライターさんでしょ? 作家先生って呼んであげましょうか?」
「やめてくれよ、俺が悪かった。とみちゃん。これでいいだろ」

 美人整復師の名前は富田(とみた)という。下の名前を成竹は知らない。
 富田は顧客情報として成竹のフルネームを知っているだろうが、名前で呼び合うような関係ではないからか、来院した時のように苗字で呼んでいる。

「今日は、どの辺りに行こうか?」
 成竹はジャケットのポケットに手を突っ込んで訊ねる。
「前回とは反対にしましょうか?」
 訊ねられた富田は小さなリュックを背中か下ろし、中から地図を取り出した。
 地図には赤ペンで色々と書き込みがされている。その書き込みは二人が散歩会と称して、あちこちを歩き回った時の書き込みだ。

「反対ね。じゃあ、ここらはどう?」
 書き込みの薄い一点を示し、成竹は富田の表情を伺う。彼女は表情を殆ど変えず、いいですね、と短く答えただけだった。
「決まりだな。それじゃ今回はコイツだ」
 成竹は煙草の入っていない方のポケットからあるものを取り出す。平仮名の「し」の字にそっくりだが、釣り針ように頭側に返しが付いている。

 さっと富田の顔に朱が差す。
 怒っているのではない。そんなことは観察眼に優れていない成竹にも察することができる。
「中も外も良くしてくれる代物だよ。スリルがあった方が好きだろ? とみちゃん」
「でも、こんなのいきなりは……」
「濡れてないか、流石に」
 こくん、と富田は頷く。
「それなら、濡らしてやらないとな」

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