旅先の非日常姦

・作

旅行が趣味の昌也(まさや)はSNSで親しくなった人妻のシオリと旅先で会うことになっていた。それは夫を悦ばせるためのセックスの手解きをシオリに行うためである。
最初はシオリの夫婦生活のためにしっかりと協力するつもりの昌也だったが、美貌の人妻・シオリの魅力と旅先での解放感から欲望を自分の解き放ってしまう。

 昌也(まさや)は旅行が趣味だ。
 休日には日帰り旅行も楽しむし、有休を使って長い日程の旅行も楽しむ。観光地でもないような地方都市をぶらついたり、反対に有名な観光地を満喫したりと気分によって中身は違う。

 そんな彼が楽しんでいるのが、見知らぬ他人との旅である。

 SNSを利用して募集し、現地で落ち合って観光地を周る時もあれば、その土地のカフェで話だけして別れてしまうこともあった。この方法は一人旅を楽しみながら、それでいて奇特な出会いに驚かされ、面倒な人間関係に縛られることもない。
 日常のしがらみから逃れるために旅を始めた彼にとって、面白おかしい旅をさらに刺激的にしてくれる丁度良いスパイスなのである。

 そうして、いつものように昌也は落ち合う予定の人物を待っていた。

 待っているのは、とある地方都市にある駅。
 普段、昌也が利用している東京の駅と違い、小ぢんまりとした駅舎にはのんびりした雰囲気が漂っている。
 勤め人達の姿はラッシュの時刻を過ぎているためか殆ど見かけない。隅に据えられたベンチでは老人達が談笑し、駅員ものほほんとした顔で箒を使っていた。

 初夏になろうという季節だが、駅舎とその周辺だけ春霞の中にあるような長閑さで、ぼんやりとした気配が漂っている。
 二、三十分に一本というペースの電車がホームに滑り込んできた。ぱらぱらと人が降り、入れ替わりにベンチに座っていた老人達もひと固まりになって乗り込んでいく。

 昌也は降りてきた人達の中から、一人の女性に目を留めた。
 肩を丸め、縮こまるように歩いているその女性は、綺麗な顔立ちをしている。すっきりした鼻筋に切れ長の目元。柔らかそうな唇は薄い桜色に彩られていた。

 時折彼女に目を向ける人達は、彼女が女性にしては長身なことに気を取られているようだ。だが、背筋を伸ばして自信満々に歩いていれば、誰もがその美貌に注目していただろう。
 ゆったりしたシルエットのシャツと、足のラインが出るジーンズという出で立ちの、その女性は改札を抜けた。それから端に寄ってきょろきょろと周囲を見回し始める。

 やはり、という思いで昌也は女性に歩み寄った。
「シオリさんですか? 俺、マサです」
 女性にSNS上の名前で問いかけると、女性は少し驚いた様子で昌也を見る。
「あっ、はい」
 小さな旅行鞄を持ち直し、シオリは体を縮こまらせたまま少しだけ笑った。

 彼女と昌也はSNS上で意気投合し、個人的なやりとりもよく行っている間柄だ。その縁から今回の旅行の相方としてシオリに話を振ったのである。

「家、大丈夫でしたか?」
「大丈夫。夫は出張で帰ってくるのは週明けだから」
「それなら、まあ安心ですね」
「うん」
「あの、なんていうか、今さらですけどホントに俺でいいんですか?」
「こんなこと、マサさんにしか頼めないし」

 昌也にしか頼めないこと、というのはパートナーを悦ばせるセックスの指南である。なんとも突拍子もない話だが、シオリはあちこちを旅行している昌也は経験豊富なのではと依頼したのだった。

 自慢できるほどの経験はないけれど、と思っている昌也に対して肩を縮こまらせ、シオリが微かに頬を染める。
 その表情の変化に昌也はどきりとした。人妻特有の色香とでもいうのだろうか。あるいは人のもの、という意識のせいなのか、昌也はシオリの恥じらいを滲ませた顔を見ただけで胸中に小さな火が点いた気がした。

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