夜の手ほどき (Page 2)

「手を出して」
 黙ったまま右手を出すと、なでくり回された。
「皮膚がざらざら。男性だから皮膚のケアはいらないって事はないのよ」
 英子がハンドクリームを自分の手に出して、俊之の手に広げていく。
 生命線に沿って英子の親指が滑っていく。周りの音が遠のいて、手に神経が集中する。温かくなって滑りが良くなったハンドクリームが手になじんでいくうちに、腹の奥がうずうずしてきた。

「どう? 触れ合っているのが手だけでも、充分に愛撫になるのよ」
 唐突に英子の手が離れた。とたんに周りの音が戻ってくる。
「こういう事、してる?」
「……いいや」
「そう。これは提案なんだけど、小百合にするように私にやってみて。どう改善すればいいか分かるし、もしかしたら小百合の独りよがりかもしれない可能性もあるから」
「……いいのか?」
「ええ」
 俊之はあごを撫でた。手からは濃厚なローズの香りがした。

 ラブホテルに入り、シャワーを浴びる。
 胸を揉み、足の付け根に手を差し込む。充分に潤っていて、指が泳いだ。
 これだけ濡れているんだ、俺のやり方に問題はなかったと胸を撫で下ろす。
 足を広げさせて挿入する。そのままガツガツと腰を振って精を吐き出した。荒い息をつき、抜いて横になる。

「どうだった?」
「全然駄目」
 思いがけない返事に、俊之は上半身を起こした。

「ちょっといじったら即挿入して自分だけイクって、それじゃ小百合も出て行くわよ」
「でも」
「気持ち良くどころか、痛くて苦痛だったでしょうね。間違いないわ」
 納得できないまま、俊之は言い淀んだ。
「でも、……もしそうなら、言ってくれれば良かったのに」
「痛いから愛撫して、なんて言いにくいわよ。これではっきりしたわね。独りよがりの下手くそなセックスよ」
「言い過ぎだ」
 俊之が睨んでも、英子は平然としていた。
「私は小百合の気持ちを代弁しているだけ。でも分かったのなら、改善の余地はあるわ。手ほどきしてあげましょうか?」
 悔しいが、小百合を取り戻すためだと俊之は頷いた。

「まずはそうね、キスからしましょうか」
 キスは歯磨き粉の味がした。メロン味を想像していた俊之は少々面食らった。歯磨きまでしたという事は、気合いを入れて挑んできたのかもしれない。
「もっと舌を絡めて……」
 舌を絡め、水音を立てながら唾液を飲む。歯磨き粉の味の奥にかすかな甘いメロンの味がした。もっと味わいたくて、深く深くキスをする。

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