酩酊関係
大学時代からの友人関係にある乾太(かんた)と明楽(あきら)。二人は時折会っては酒を飲み交わし、体を重ねていた。この日はお互いのパートナーには言えなかった性癖を実践することになって……。友人よりも近くて、恋人よりもある意味もっと近い二人のある一夜の出来事。
鍋の底から続々と気泡が上がってくる。
その様子を見ていた乾太(かんた)は、鍋に紫蘇を入れた。煮立っていた鍋が静かになり、蒸気が収まる。それを見た彼はすぐに火を大きくした。
菜箸で丁寧に紫蘇をお湯の中に沈めると、次第にお湯が鮮やかな赤色に染まる。
「おお……」
明るいルビーのような色合いに思わず乾太は声を上げた。
そんな彼の背後にあるテーブルの上でスマホが振動する。鍋を一瞥して、乾太はテーブルに歩み寄るとスマホを取り上げた。ショートメッセージが一件。中身を確認すると、旧友からだった。
『今から行くぞ!』
『了解』
簡潔に返信し、乾太は再び鍋と向き合う。
小さなキッチンには紫蘇の爽やかな香りが充満し、彼は上手くいきそうだと胸を躍らせる。
程なくして、インターホンが鳴った。
玄関へ行き、ドアスコープを覗くとスーツ姿の女性が立っている。
外は夜になっても暑いらしくスーツの上着は脱いでビジネスバッグと一緒に脇に抱えていた。ネイビーブルーのシャツを着ており、ぴんとした背筋や凛とした顔立ちで、やり手のキャリアウーマンという雰囲気が滲み出ている。後ろ手に組んで背筋を伸ばして立っているので、警官や軍人のような規律を重んじる硬い仕事についているようにも見えた。
「よう」
ドアを開け、女性を迎え入れる。
「いい匂いしてるけど、なに?」
女性はパンプスを脱ぎながら乾太に訊ねた。
「紫蘇。シロップ作ってるんだよ」
「へぇ、美味しいの?」
「いや、知らん」
「知らんのかい」
部屋に上がった女性は勝手知ったる様子でキッチンを抜け、リビングへと向かう。リビングにはデスクとパソコン、テレビ、ソファ、ローテーブル、大きな本棚が据えられていた。女性はソファにビジネスバッグを放り出し、キッチンへ取って返す。
「梅酒、どんな感じ?」
「そろそろいい具合だろうな」
鍋から紫蘇を取り出しながら乾太は一瞥すらせずに答えた。
「おっ、いいねぇ。飲もう飲もう」
女性が覗いた作り付けの棚には、大小様々な容器が収納されていた。
「増えてない?」
「梅酒以外も色々と試してるからな」
「……相変わらず、手作りジャンキーだ」
苦笑して、女性は棚の中から梅酒の瓶を取り出した。瓶にはラベルが張り付けられ、二年前の日付と『明楽(あきら)と漬けた』とメモ書きがされている。
「これ、作ったのも、もう二年前か」
「明楽、テーブルの上の瓶取ってくれ」
「はいはい」
気安く返事をして女性――明楽は梅酒の瓶を棚に戻し、指名された瓶をテーブルの上から取り上げ、乾太の元へ歩み寄った。そして、瓶をコンロに近い位置に置く。
大人の哀愁
癒やされました〜ありがとう!
どら さん 2022年10月11日