空似
古着の売買を営んでいる鏑木(つみき)。年に数回の倉庫の棚卸しをしていると、顔見知りの女性が訪ねてくる。女性はどういうわけかセーラー服を着て、鏑木を誘惑する。しかし、彼女がそんなことを自分にする心当たりが鏑木にはなく……。
古着市場は、まだまだ大きくなる素養がある。
それというのもネットの発達によって誰でも商売がし易く、そして個々の消費者との繋がりが簡単になったからだ。
また、現在進行形の市場拡大によって、その中身も多様化していた。ノンブランドの衣類だけでなく、有名ブランドのもの、ビンテージ、個人製作、さらには各種制服といった変わり種の古着市場まであるのだ。
お古の制服の販売というと、どうしてもブルセラ感があるが、クリーニングの後に進学を控えた子供を持つ親に販売されるリサイクル的側面の強いルートもある。
鏑木(つみき)も、そういった学校制服の古着市場を縄張りとしていた。
古物商としての認可を得たのが二十代の半ば。それから色々な品物を扱ってきたが、古着市場は意外にも性に合っていたようで生業として長続きしている。
そんな鏑木は都心から少しばかり離れた貸し倉庫にいた。
倉庫の管理会社は中身の管理まではしてくれない。だから整理整頓をして、棚卸しを定期的に行う必要があるのだ。
「あぁ、くそっ、腰がいてぇ」
段ボール、木箱、プラスチックコンテナとバラエティに富んだ入れ物に張り付けた目録と、その中身を照会する。そして、手元のクリップボードに留めた表の品目の横へレ点を書き入れていく。
「バイトでも雇うべきだったか」
無精髭をなぞり、鏑木は独り言ちる。
ここまで棚卸しが完了したのは全体の三分の一程度。
歳を食って要領よくこなせるようになったが、それでも体力の衰えは如何ともしがたい。運動不足もあって、下腹が最近は突き出てきた。
腕時計を見れば、時刻は昼に近い。
飯でも調達しよう、と鏑木は埃っぽい倉庫の外へと脱出した。
外界は薄曇りで風は殆どない。薄ぼんやりして眠りこけているような暢気な空気が漂っていた。
倉庫の前に停めていた車に乗り込み、助手席にクリップボードを放り投げる。
キーを回された車は数度身震いしてから咳き込むようにしてエンジンを始動させた。
車を発進させ、鏑木は借りている倉庫から離れていく。
貸し倉庫がある町は都心から離れてこそいるが、首都の一角には違いない。それなのに背の高い建物はぐっと少なくなり、昭和に取り残されたような町並みがぽつぽつと広がっている。ノスタルジックというよりも色褪せた写真のような古ぼけた町並みだ。
車をしばらく走らせ、辿り着いたコンビニの駐車場はやたらと広かった。
薄暗い店内に入ると鏑木は、おにぎりとインスタントの味噌汁を購入して車に戻る。ドリンクスタンドにお湯の入った味噌汁を据え、来た時よりも心持ち丁寧に運転して、倉庫の前へと舞い戻った。
車の中でコンビニのおにぎりを齧り、インスタントの味噌汁を啜る。お湯が少なかったのか、味噌汁が妙にしょっぱい。
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