貝合わせを……する前に

・作

重い悩みを抱えているらしい妹。まだ性転換の手術を受けていないけれど、オネエなあたしはあの子のたった一人の姉。相談に乗ってあげないと……。だが妹の悩みは、姉が想像していたよりも、はるかにとんでもないものだった!姉として相談に乗るはずだったのに、男になってと迫られて――オネエな姉が出した“答え”とは?!

やっと手術の日が決まった!あと半年で、やっと女になれる。

令子みたいな、理解があって優しくて、おまけに親戚に性転換手術専門の医者がいる妹がいて、良かった。あたしは本当にラッキーだ。

死んだ親は、「令子は生まれた一族の中では不出来な子で、借金を肩代わりしてもらう交換条件として養女として押しつけられた」と言っていたけど、少なくとも親よりはあたしには理解があったし、優しかった。あの子のどこが不出来なんだか。

 確かにあの一族の人は超高スペックの人ばかりだけど、令子だって人気の美容師で、ファッション雑誌によく出てるのに。

 でもさっき電話で日が決まったと言うと、喜んではくれたけど、何かおかしかった。来週の日曜の夜に直接会って話したい、なんて。

 あたしの部屋を会う場所に指定してきたのも変。オネエだけどめちゃ美形、しかも調理師・栄養士・管理栄養士のコンボ資格持ちで、お店のご飯も担当させてもらってるから、店の人たちには良くしてもらってるし、令子が雑誌に出てるって知ってからは、みんなが「一度でいいから連れてきて!飲み代なんかはいいから、VIP待遇するから!」なんて言ってる。あたしにとっても自慢の妹だから、相談事があるならお店に連れていって、みんなでどうすればいいか考えてあげたいと思ってたのに。

 あたし以外に聞かれたくない話でもあるのかな。でもそれならそれで、あたしは兄でも姉でもあるから、令子の話をきちんと聞いてあげよう。医者を紹介してくれたお礼返しもちょっとだけでもしてあげなきゃ。

 あの子の好物、揃えないと。あとはバーテンやってるオネエ友達に教えてもらったお酒も用意しなきゃ。会うの久しぶりだし、おもてなししないと。

――久谷カノン(本名:久谷藤治)の日記より――

 

 令子が指定してきた日曜日の夜は、急な話だが食事の仕上げだけで早退させてほしいとカノンがマネージャーに告げた時、彼は真剣な顔になった。

「店じゃダメって、やばい相談なんじゃない?」

「みたいです。気が重そうだったから、余計に……」

「じゃあカノンちゃん、姉として、しっかり話を聞いてあげてね。店に呼ぶのはいつかでいいから」

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