雨待ち人

・作

雨が降った日にだけ現れる奇妙な石平(いしひら)という人物。古道具屋で居候をしている蛍伍(けいご)は彼女が現れることを心待ちにしているが……。

 雨が降っている。

 長雨になるだろうか。それとも通り雨だろうか。

 蛍伍(けいご)は薄暗い店内から硝子戸越しに通りを見つめ、そんなことを思った。

 彼がいるのは広い土間で、上がり框以外には古い道具が色々と置かれている。高さも大きさも様々な棚にも品々が並び、黙然と買い取られる日を待っていた。

 彼はそんな品々の一つである籐製の椅子に腰かけ、退屈な時間を過ごしている。店主は出かけており、居候の身である彼は店番を一時任されていた。来客があれば、二時間ほど店主が留守にしている旨を告げるだけの簡単な役割だ。

 そもそも灯りを落とし、カーテンの引かれた店内は薄暗く、一見して留守だと知れるはず。外に開店を報せる札もなく、普段は外に出している品物も雨のために中へと仕舞っている。

 だから、蛍伍はゆったりした椅子に座り、退屈を持て余していればいい。客など来ようはずもないのだ。ざんざかと降りしきる雨音ですっぽりと包まれ、何も音を感じない。あまりにも音で満遍なく包まれているせいで、かえって静けさを感じてしまう。

 不意に軒下へ影が差した。

 軒下で傘が閉じられ、続いて傘を振って雨粒を飛ばす音が硝子戸越しにくぐもって聞こえる。

 しぱらくして硝子戸が開けられた。

 現れたのは蛍伍と同じ年頃の若い娘だ。白いシャツと黒いジーンズ、それにリュックサック。顔立ちそのものは悪くないが、どこか全体的に野暮ったい印象の娘である。少し癖のあるショートカットに濡れていた。

「こんにちは」

「どうも」

 挨拶をする。

 なぜか彼女は雨の日にしか現れなかった。初めて会った時も蛍伍が偶々店番をしていた時に見かけ、傘を貸したのだ。安物のビニール傘だったので、蛍伍としては捨てたつもりだった。返ってくるとは欠片も期待していなかったのだ。けれど、彼女はまた現れた。

 その日も雨が降っていた。

 今日も雨が降っている。

 蛍伍は灯りもつけず、じっと彼女のことを見つめた。

 傘を片手に彼女は楽し気に品物を眺めている。

 品物を並べているのが土間であるせいか、じっとりと湿気が籠っていた。汗をかくような蒸し暑さはないが、まとわりつく湿気に胸が悪くなりそうだった。

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