雨待ち人 (Page 5)

 脱力し頽れそうになる体を何とか支え、男根を引き抜いた蛍伍は上がり框に尻を落とす。精液が石平の膣から糸を引いている。自分でも飽きれるほど濃いものを吐き出したらしかった。

 荒々しく息をつき、彼は脱力している石平を見る。彼女はぼんやりとした視線を虚空に投げていた。そんな彼女を視界から外し、蛍伍は乱れた呼吸と衣服を整える。

 身なりを整えた彼が再び石平に目を向けたとき、そこには何者の姿もない。蛍伍は情交の疲労とはまた違った疲労が胸の奥へ澱のように沈殿していくのを感じた。

 不意に傘が開く音が聞こえる。

 蛍伍は硝子戸へ歩み寄りカーテンを開く。すると雨の中へ溶けるように姿を消す石平の背中が微かに見えた。

 深い溜息を吐き、蛍伍は硝子戸を喧しく鳴らしながら開く。相変わらず雨は降っていた。息をするだけで雨の気配が肺の奥まで入り込んでくる。

 何度目だろうか。

 彼女が自らのことを忘れ、雨に紛れて現れるのは。

 幾度も繰り返される逢瀬は、振出しばかりの双六のように虚しい。

 石平は繰り返しているのだ。雨が降り、濡れて、家路を急ぐ。だが、そこに蛍伍という異物が混入してしまった。ぐるぐると回り続けていた道から逸れ、蛍伍に傘を返すため、この古道具屋で一時だけ雨宿りをし、来た意味を忘却して去っていく。

 そうして遠回りしても、いずれは元の道へ戻るのだ。

 同じ場所を延々と回り続ける虚しい家路へ。かつて自らが死した場所へ、何度でも。ぷつりと途切れてしまった人生の終点へ。

 そんなものに蛍伍は恋をしていた。

 蛍伍は雨の日を待ち、情欲だけを満たす自慰のような情交を交わす。

 決して交わらぬ想いを抱えたまま。

(了)

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