あなたに刻む文字

・作

スーパーのレジでバイトしている稔は、同じくレジで働いている未亡人の町田圭子のことが気になっていた。ある日、稔は圭子の内ももに文字が書かれているのを見てしまう。黒マジックで書かれた「正」の文字に欲情し、稔は強引に圭子の家に押しかけて体に文字を刻んでいく。

 買ってきたおにぎりを食べながら稔は溜め息をついた。

 大学生になって、スーパーのレジのバイトを始めたのだが、思っていた以上に大変だった。
 覚えることがけっこうあり、言いがかりとしか思えないクレームをつけてくる客もいる。接客業より肉体労働の引越しのバイトにすれば良かったと後悔した。それでも辞めないのは町田圭子がいるからだった。

 休憩を終えて職場に戻っていく圭子の後ろ姿を眺める。スレンダーで化粧も最低限に見えるのに、なぜかやたらに色気がある。10歳以上も年上の女性にこんなに欲情するのが自分でも不思議だった。

 今日も綺麗だなとぼんやり思っていると、同じレジ係のおばさんたちの会話が耳に入ってきた。

「町田さんって、旦那さんが交通事故で亡くなったんですって」
「それでパートに出てるってこと?」
「そうみたい。子供もいなくて1人になったって」
「レジのパートよりホステスの方が似合いそうよね」
「そうね」

 何がおかしいのか、おばさんたちが笑い声を上げる。
 稔は残りのおにぎりを飲み込んで立ち上がった。

 バイトを終え、着替えて従業員用出口に向かっていると、圭子が前から歩いてきた。忘れ物かなと思いながらあいさつする。

「お疲れ様です」
「お疲れ様です」

 バックヤードは狭く、お互い脇に避けなければならない。避けた圭子のスカートが台車に引っかかって、際どい所までめくれた。
 薄い黒のストッキングに透けて、内ももにもっと黒い何かが見えた。圭子があわててスカートを引っ張る。 

「す、すみません、それじゃ」

 恥ずかしさで顔を赤くして横をすり抜けようとする圭子の腕をつかむ。

「え、あ、あの」

 稔はスカートをつかんでめくった。

「いやあっ」

 圭子が手でスカートを押さえる。下着は見えなかったが、内ももにあったものは見えた。
 黒のマジックで書かれた正の文字だった。

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