青い薔薇は拙い恋の夢を見る (Page 3)

 ウキウキ気分で二人は山間にある温泉宿に辿り着く。

 風情のあるなかなかの旅館だ。たっぷりと汗をかいたから、温泉を満喫しようと――そう思っていたのである。

「ごめん」

「いや、しょうがないっす。予約してない方が悪いっす」

 二人はとぼとぼと四駆まで戻る。

 満室だったのだ。

 温泉だけでもと思ったが、入浴のみの受け入れはしていないらしい。いや、もしかしたらあまりにも二人が汚かったので、宿泊をやんわりと拒否されたのかもしれない。京太郎はシートベルトに拘束されながら、そう思った。

 一旦落ち込んだ気分は止まることを知らず、どん底まで落ちていく。

「京太郎くん」

 やけに真剣に声で知花が彼を呼んだ。

 ぎゅっとハンドルを握り、前方を見据えたままで彼女は決意に満ちた横顔で決然と告げた。

「もうひとつのプランを実行させてくれない? とっておきなの」

 とっておき。そう言われては期待せざるを得ない。京太郎はこくりと頷く。

 エンジンに火を入れ、知花は山道を飛ばした。ぐんぐん沈んでいく夕日を追うように、彼女は曲がりくねった道を攻めまくる。おかげで京太郎は車窓に二度ほど頭をぶつけ、シートベルトに締め上げられた潰れたカエルみたいな声を上げる羽目になった。

 京太郎がそんなこんなでぐったりした頃、知花は海岸近くにある大きな駐車場に四駆を滑り込ませる。エンジンを切り、彼を急かして車を降りた。

「えっ、え?」

 困惑している京太郎は置いてけぼり状態で、知花はさっさと自分の荷物を持ち、海岸へと歩き出す。慌てて京太郎も後を追う。

「まさか、ここで野宿……」

「違うわよ」

 憤然と彼女は波打ち際に黒い塊を投げた。するとそれは空中で急激に膨張し。二人乗りのゴムボートへと変わる。

「行くわよ、早く」

「あっ、はい」

 事態についていけず唯々諾々と京太郎は、知花の指示に従う。二人でゴムボートを波打ち際からしっかりと浮かぶ辺りまで運び、乗り込む。そして、知花自らがオールをせっせと漕いで海岸線沿いに進む。

「変わりましょうか?」

「京太郎くんじゃ間に合わないから」

 にべもなく言われ、京太郎はボートの上で縮こまる。

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