青い薔薇は拙い恋の夢を見る (Page 4)

 水平線にはじわじわと太陽が沈んでいく。ぼんやりと京太郎はその様を眺めていた。向かい側には一定のリズムで漕いでいる知花がいる。

 どんな状況なのか。京太郎の常識からはあまりにかけ離れた事態に思考が半ば麻痺していた。

 しばらく海岸線と並行に異動していたボートが海岸へと舳先を向ける。離岸流にも負けず、知花はボートを海岸へと近づけていく。

「おおっ」

 近づいてくる海岸を見て、思わず京太郎は驚嘆した。崖に囲まれた小さな入り江に向かっているのである。そこは陸からは崖と雑木林に阻まれ、海からは入り江の狭さで大型の船舶は近づけない。接近が可能なのは、二人が乗っているような小型のものぐらいだろう。

 京太郎もあれがいわゆるプライベートビーチ的な趣のある場所だと分かる。そして、落ち込んでいた気分が少々盛り上がってきた。

 二人で疲れた身体に鞭を打ち、ボートを接岸させ、波にさらわれない位置に固定する。

 だが、それでへばっていては砂浜で寝ることになってしまう。気力を振り絞り、テントを設営した頃には、二人とも座り込んだまま動けなくなってしまった。

 京太郎と知花は、疲労でぼぅっとしたまま沈みゆく夕日を見つめる。

 頭の中が空っぽになり、日頃のしがらみなど夕日と一緒に水平線の彼方へと沈んでいく。

 じわじわと空から赤みが消え、濃紺を経て薄墨へ、そして白金を塗したビロードのような黒へと移り変わっていった。

「どうして、京太郎くんは今の仕事を選んだの?」

「あー」

 不意に訊ねられ、京太郎は答えに窮した。しかし、言い誤魔化しも思い浮かばず正直に答えることにした。嘘つくのがもったいないような、そんな気分だったのだ。

「なんとなくです。就活して、内定貰えたから入社しました」

「正直だね」

 苦笑する気配が口調から伝わり、ちらりと横目で彼女を見ると、やはり笑っていた。

「あたしも同じ」

「そうなんですか?」

「うん。本当は今日付き合ってもらったみたいな、宝探し的なことを仕事にしたかったの」

 現代で宝探しを職業にするのは難しいだろう。だが、簡単に否定するようなことを京太郎は言いたくなかった。代わりに別のことを質問する。

「どんなお宝を探してるんですか?」

「秘密」

 悪戯っぽく知花が笑った。真っすぐに京太郎を見ていた。気恥ずかしくなり、彼の方が先に目を逸らした。

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