青い薔薇は拙い恋の夢を見る (Page 5)

「夕飯、食べません?」

 誤魔化すために彼はそう提案した。リュックサックの中から簡単に食べられるレーションなどを取り出す。空腹は最高のスパイスとはよく言ったもので、普段であれば不味いはずのレーションがとてつもなく美味い。

 腹が膨れて余裕ができたのか、京太郎は自分が無数の星の下にいることに気付けた。街中では決して見ることの敵わない景色だ。砂浜の上に仰向けになって堪能する。

「良い場所に来ましたね」

「良かった」

 ほっとした口調で知花に答えられ、京太郎は驚いてしまう。

「せっかくの連休に、上司のプライベートな趣味に突き合わせてるから、やっぱ嫌かなって思ってたから」

「……あー、まあ、それはなんというか、ハードでしたけどね」

「嫌じゃなかった?」

「うーん、まあ、嫌ではない、かな?」

 嫌ではないが、疑問ではある。

「依頼とか言ってましたけど、どういう知り合いなんですか?」

「『ブルー・ローズ』っていうサロンに入会してるんだけど、そこで知り合った人」

「ビジネスじゃないんですね」

「半分ぐらいね。一応、経費は請求してる。お互いにある程度お金を動かした方がなぁなぁで動かないしね」

「そういえば今まで一人でやってたのに、どうして急に俺のこと誘ったんですか」

「……」

「ん? どうしたんですか」

 上半身を起こし、京太郎は黙ってしまった知花を見た。彼女は黙って海を見つめている。微妙な葛藤が見え隠れしているような気がするが、気のせいだろうか。

 京太郎も黙っていると、不意に彼女が立ち上がった。そして、のしのしと歩いてきて彼に跨る。体温がじんわりと伝わってきた。

「は? えっ、あの」

「分かんないかな」

「……怒ってます?」

「喋んないほうが良いよ。歯も食いしばって、目も閉じたほうが良い」

 マウントを取られた状態で京太郎は慄いて言われた通りにする。衝撃と続くであろう痛みに頃が前をしていると、柔らかく熱いものが唇に触れた。

 もしや、これはキス? そんな馬鹿な、と京太郎が恐る恐る目を開ければ間近に知花の整った顔がある。

「好きじゃない人と、こんな時間は共有しないと思うけど」

「そ、そうっすね」

 ひっくり返った声で京太郎は返事をした。それからそろそろと手を伸ばして、知花の頬に触れる。彼女は少しくすぐったそうな顔をしたが、嫌がる素振りはない。彼は思い切って自分からも唇を求めた。

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