青い薔薇園の管理者に甘い罰を

・作

『ブルー・ローズ』の情報管理を統括する立場にある大樟明穂(おこのぎ あきほ)。彼女は情報漏洩を内密に処理していた。だが、その行為がオーナーの知るところとなり、スタンドプレーのペナルティを受けることになってしまう。そして、セラピストの古賀が明穂の快楽責め執行人となる……!

 エレベーターの壁に背を預け、大樟明穂(おこのぎ あきほ)は目を閉じていた。眉間に皴を寄せ、俯いた彼女の顔には疲労がうっすらと滲んでいる。

 そんな状態でありながら彼女の鋭利な美貌は些かも損なわれていない。シックなスカートスーツに覆われた肢体はしなやかで、女性的な丸みを帯びた美しいラインにも崩れる気配がなかった。

 息を吐き、明穂は目頭を揉む。蓄積した疲労はその程度では拭えない。明日の出勤のことを考えるとそんな気休めにも縋りたい気分だ。

 最近になって部下が退職し、穴埋めに追われている。しかも円満な退職ではなく、音信不通になって事実上の解雇による退職。

 面倒なことをしてくれた、と無意識に明穂が舌打ちをしたところでエレベーターが停止した。

 眉間に皴を寄せたまま彼女は廊下へと歩み出た。社内であれば誰もが道を譲っただろうが、マンションの廊下には誰もいない。時刻は深夜で、日付が変わる寸前だ。住人の何割かはすでに寝ているだろう。

 さっさとシャワーを浴びてベッドに潜り込みたい気分だ。

 それでも隣人トラブルを厭い、彼女は少々足音を忍ばせた。白っぽい廊下には、やけにヒールの音が響く気がする。事が思い通りに運ばず、明穂は苛立たし気にまた舌打ちをした。最近は計画通りに物事が運ばないことが多く、ストレスが溜まる。

 大した能力もないくせに口だけ大きい人間がやっと一人減った。余計な口出しばかりしていた男だった。その相手をしなくていいと思えば、今の苦労も多少は報われるだろうか。

 自宅のドアまであと数歩というところで明穂は、歩きながらバッグに手を入れる。常に整理整頓をしているバッグの定位置からキーホルダーを手探りで取り出す。その時には扉の前に到着しており、彼女は扉を開錠し、その向こうへと滑り込む。

 後ろ手に扉を閉め、錠をおろした。固い金属音がプライベートな場所に帰り着いたと、明穂を安心させる。

 暗い天井を見上げるように扉に後頭部を預け、彼女は溜息を吐く。靴を脱ぐことも億劫な疲れを急に実感した。このまま座り込み、眠ってしまいたい。そんな誘惑に駆られるが、せめてシャワーを浴びろと理性がうるさい。

 天井から視線を引き剥がした明穂は靴を脱ごうとして、ぎょっとした。足先に何かが触れたのだ。

 いつも玄関には不要な靴を置かない。だから、空っぽのはずなのだ。明穂は恐る恐る足元へ視線を投げた。

 そこには見覚えのない履き古されたスニーカーが一足。

 かたんと部屋の奥で物音がする。思わず明穂は身を固くした。鍵を開けて扉の外に飛び出したいという衝動があるのに、彼女の身体はまともに動かなかった。

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