初恋の終わり

・作

健一が息子に結婚相手として紹介された女性は、昔、健一に懐いていた女の子だった。その女性、恵は結婚式の前日に健一の元に訪れる。健一が初恋の相手で、抱いてほしいと言う恵をかわすが、酒を飲むうちに健一は眠ってしまう。起きた時、恵は思いを果たそうと健一自身を口に含んでいて……。

 懐かしい風が吹いた気がした。

 紹介したい人がいる、と息子に言われて来た個室のレストラン。そこで待っていたのは白いワンピースを着た清楚そうな美しい女性だった。
 私を見ると、口元に手を当ててつぶやいた。

「ケン兄……?」

「その呼び方……まさか、恵ちゃんか……?」

「あれ、知り合いだったの?」

 息子の浩一が意外そうに首を傾げた。

「あ、ああ。昔、近所に住んでいたんだ」

*****

 健一が大学生で、恵が小学生だった。
 大学に通うため一人暮らしをしていた健一のアパートの前に恵の家があったのだ。なぜか恵に懐かれ、健一のアパートによく遊びに来ていた。トランプしたり、ままごとをしたりと結構楽しかった思い出だった。
 健一が大学を卒業して引越しする日に、恵は泣きながら言った。

『恵、大きくなったらケン兄のお嫁さんになる!』

*****

 明日は浩一と恵の結婚式。
 縁とは不思議なものだと思いながら私はウイスキーのグラスを傾けていた。妻はガンで数年前に亡くなっている。浩一は同居しようと言ってくれたが、断った。なんとなく、そうすべきではないと思ったのだ。
 玄関のチャイムが鳴った。こんな夜更けに誰だと思いながら玄関のドアを開ける。

「はい……恵さん?」

「こんばんは」

 薄いグリーンのワンピースを着た恵さんが微笑んだ。手にはビニール袋を提げている。

「どうしたんだ? とにかく中へ入って」

 リビングに通し、お茶の用意をしながら話しかける。

「結婚式の準備はもういいのか?」

「はい、全部終わっています」

「浩一は?」

「友達と独身最後のパーティをしています」

 私は苦笑してお茶を置いて、向かいのソファに腰を下ろした。

「最後に羽目を外したいんだろう、許してやってくれ」

「はい……私も、羽目を外そうと思っているんです。許してくれますか?」

「ははは、どうぞ」

「それでは……」

 恵さんが背筋を伸ばした。

「私を、抱いてくれますか」

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