日陰の女
足立栄一は配送会社で働いていた。担当エリアの中で気になっていた柳川桃香がフェラをしていたであろう姿で出てきてショックを受ける。だが月曜の午前中なら相手をすると言われて関係を持つ。桃香は自分が愛人であると打ち明けてきて……。
「ハンコかサインをお願いします」
足立栄一が配送会社に勤めて5年。仕事にも慣れて道に迷う事もなくなった。
長く勤めていると、担当エリアの中でもよく宅配を頼む人は決まってくる。向こうは配達員の顔など覚えていないだろうが、顔と名前を覚えた客は何人かいた。
ある日、英一は渋滞にはまって、配送がいつもより遅れていた。遅れた事を家々で謝りながら回り、最後に柳川桃香の家に着いた。
密かにいいなと思っている女性の家で、怒られなきゃいいけどと思いながらチャイムを押す。ややあって、ドアが開いた。
「遅くなって申し訳……」
栄一はダンボール箱を抱えたまま固まった。
ほんのわずかずらせば乳首が見えるくらいワンピースの胸元を大きく開けていた。そして、胸の谷間には白濁液が飛び散っていた。
「ありがとうございます」
何でもないかのようにハンコを押す。
よく見ると、口元も濡れて、あごにまで液体が流れていた。
「あの……あご……」
「……あら」
桃香がゆっくり唇を舐める。
「ごめんなさいね、はしたなくて」
桃香がダンボール箱を受け取ってドアを閉めた。
恋人がいたのかと、栄一は落ち込んだ。
桃香はかろうじて風呂トイレがついているような2階建てのボロアパートの1階に住んでいて、いつも家にいる。今時はパソコンとWi-Fiがあれば自宅でも仕事できるので不思議はない。けれど、それにしては妙に気だるげというか、隠しきれない妖艶な色気をまとっていた。
おそらく30代前半。ゆったりとウェーブのかかった長い髪を掻き上げる仕草も誘っているように見える。抜けるような白い肌で、いつも体の線が出るワンピースを着ていた。
落ち込みつつも、フェラをしたであろう桃香の顔を思い出しながら栄一は自慰をした。
数日後、栄一は桃香の家に来ていた。
仕事なので仕方ない、対面じゃなくて置き配にしてくれればいいのにと思いながらチャイムを押す。
「はい」
ドアを開けた桃香は、くすりと笑って栄一の胸の名札を見た。
「この前は刺激が強かったかしら? えーと、足立さん?」
「あ、はい……あ、いえ、あの」
栄一が赤くなっていると、桃香が言った。
「私とセックスしたい?」
「は……え?」
「したいんだったら、月曜の午前中に来て」
ハンコを押し、ダンボール箱を受け取って桃香がドアを閉めた。
残された栄一は呆然として突っ立っていた。
「……え?」
読みやすくて良かった。ハッピーエンドで読後感も爽やか
もちち さん 2023年4月26日