日陰の女 (Page 4)
栄一は中に強引に入って壁に桃香を押し付けた。無理矢理唇を重ねると、体をよじって抵抗された。
「今、あの人としたばかりだから……」
「構うものか」
唇を割って舌を差し入れて唾液を吸っていく。
「やめて……やめて!」
押しのけられて、栄一は壁に背を預けた。
「あの人に抱かれたばかりの体を見られたくないの……」
「え?」
「もう帰って」
押し出されて、栄一はうなだれて仕事に戻った。
数日後、栄一は気まずい思いを抱えながら宅配に向かった。ダンボール箱を受け取り、桃香がぽつりと言った。
「ありがとう。……配達してもらうのは、これで最後になるわ」
「え……」
「愛人は解消だって言われたの」
ダンボール箱を置いて、桃香が腕を組んで壁にもたれた。
「この間の事で、なんとなく気づかれたみたい。自分だけを見ていない女はいらないみたい」
寂しそうにしながらも、桃香はどこかスッキリした顔をしていた。
「こんな生活、いつまでも続けていられないものね」
「これから、どうするんですか」
「どうしようかしら……」
いなくなりそうで、栄一は思い切って言った
「決まっていないんなら、俺と新しく契約して下さい」
桃香が警戒したような表情になる。
「俺と、結婚して下さい!」
桃香が差し出された手を眺めた。
「……いきなり結婚は急過ぎるかしら」
「あ、そうですよね……」
「バツイチで愛人だったのに、いいの?」
「桃香さんがいいんです」
「そう……それじゃまずは、お付き合いから」
手を握り返されて、栄一は舞い上がる気持ちを抑えきれずに満面の笑みを浮かべた。
「とりあえず、どこかにデートに行きませんか?」
(了)
読みやすくて良かった。ハッピーエンドで読後感も爽やか
もちち さん 2023年4月26日