異貌なる者の蜜事

・作

異形なる者と家畜として購入された人間の少女。二人はいつしか心を近づけ、蜜事を交わすようになっていた―――。

 そこに並べられた人々には全て値札が下げられていた。

 手足を枷に繋げられ、首枷から妙につやつやとした金属の値札がぶら下がっているのだ。並べられた商品達は上物から端物まで様々である。

 品定めをする者達は誰もが商品達とは異なる外観を有していた。

 獣の相を有する者。

 鳥の相を有する者。

 魚や蜥蜴の相を有する者。

 大まかに四肢があり、二足歩行していながらも輪郭は微妙に異なり、地に満ち満ちた人類とは明らかに異なる者達。

 それらが賑々しく練り歩き、品定めをしている。

 不意に異形達の群が二つに割れた。

 喧騒がにわかに静まり、亀裂の中央を一人の男が歩いてくる。背の高い男だ。2メートル程の背丈があり、それでいて胴体とそこから伸びる四肢は枯れ木のように細い。体躯の異形さを唐突に忘れ果て方かのように首から上は平凡なアジア系の顔が乗っている。

 切れ長の目がつっと動き、小さな檻のひとつで止まった。その中にはぼろきれを体にまとわりつかせた、小汚い少女が押し込められている。蹲り、身動ぎすらせず、そのくせ妙にぎらついた目で檻の外を眺めていた。

「これは、お幾らかな?」

「へい、旦那。こいつは50程でさぁ」

 尋ねられた猫の頭部を持つ小太りの異形が揉み手をして答える。

「随分安いね。相場の半分もない」

「へへへ、こいつぁ傷もんでしてね。その上、凶暴なもんで、なかなか手に負えないんでさぁ。でもまあ、ここで締めていくなら、10は上乗せしてくだせぇ」

「見せてもらおうか」

 細長い男が錠前に指を差し込むと、簡単に錠が開いてしまう。彼の五指は針金のように細く、関節など形ばかりのものなのかてんでバラバラに蠢いている。

 男が屈んで檻の中へと手を入れるのと、影が飛び出して彼の首筋に歯を立てるのは殆ど同時だった。

「言わんこっちゃない!」

 小太りの猫男が額を押さえて叫ぶ。

 周囲で見物していた異形達がわっと悲鳴を上げて逃げていく。

 それら全てを無視し、細長い男は自分の首筋に喰らいついている少女を軽々と引き剥がした。少女の口元には男の青白い皮膚と僅かな肉片が血の糸を引いている。

「ふむ」

 痛痒を感じさせず、細長い男はつぶさに少女の垢に塗れた顔を観察する。

「美しい」

 乱れ薄汚くなった頭髪の下にある少女の面の3分の1程は、酷い火傷の跡で爛れていた。片方の瞳は白濁し、動いているものの視力は失われているだろう。

 針金のような指が少女の白濁した瞳に伸ばされる。少女は身を固くし、強く目を瞑るが軽々とこじ開けられ、再び白濁した瞳を露出させられた。

「店主殿、これを頂こう」

 男は上着の中から革袋を取り出し、猫男の足元に投げ捨てた。

「足りるはずだが、どうかな」

「えっ、いいんですかい?」

「美しいものへの対価は十分に支払うべきだ」

 細長い男はそれだけ言って、少女をぶら下げてその場を立ち去る。

 現れた時と同様に異形達は静かにそれを見送った。

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