貝合わせを……する前に (Page 3)

 夕食を終えて、カノンが作ったカクテルで二人はまず乾杯した。

 カノンはまず、お礼を言わなければと思った。何人もの医師に『完成度の高い手術は出来ない』と言われていたので、自分が望むレベルの手術が出来る医師を、令子が紹介してくれたのが本当にありがたかったのだ。

「まずはお礼、ね。先生、紹介してくれてありがとう。これであたしもちゃんと女になれるって思うと、うれしい」

「ううん、はとこだから……紹介料は、その……」

 令子は珍しく、言葉を濁した。

「どうしたのよ?あんたらしくないわよ?酔うといっつもあたしに電話かけてくるし、二人で飲む時も『聞いて!聞いて!』ってうるさいのに」

 カノンは冗談めかして、そう言った。

そうなのだ。普段はおだやかでおっとりしていて、それでいて明るくて頼りがいがある人というので、令子は同じヘアサロンのスタッフにもお客にも人気があるのだ。

令子がこれだけ思い詰めた顔をしているのは、それだけ大変な問題を抱えているに違いない。

 

「あの……あのね、姉様、じゃなくて兄様」

 令子はカクテルを飲み干すと、カノンの正面を向いて正座になった。

「あのね、本当はあの人なんて、医者なんて、紹介したくなかったの!兄様の心は女だって、分かってた。だから体も本来の女に戻すっていうのも、当たり前だって分かってる。

 でもあたし、男の兄様が、ずっと好きだった。本当は、養子縁組がどうにかなるんなら、兄様と結婚したかった。セックスだって、本当は初めてから欲しかった。他の人に初めてなんてあげたくなかった。

 ねえ、手術を受けたらもうダメ……なんでしょう?今からでいいから、予約取り消して。

 兄様、あたしを抱いて。女として好きになってくれなくてもいい、セフレでいいから、ううん、性奴隷でも肉便器でもいいの。

 とにかく、一度でいいから、今から抱いて……」

 令子は途中から泣きながら、正座を崩して膝でカノンの元まで行くと、カノンにしっかり抱きついてきた。

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