隠れてすること

・作

サークル仲間である千鶴恵(ちづえ)の過激な自撮りをSNSで見つけてしまった信晴(のぶはる)は、それをやめるようにと話をするのだが、話は妙な方向に転がっていき……。

 人間は多面的な生き物である、とは使い古された言い回しである。
 だが、そのことを信晴(のぶはる)は実感していた。

 特にSNSという場はその匿名性も相まって、人は容易く隠れていた性分を曝け出してしまうものらしい。承認欲求がどうとか、色々と口の回る連中が言っているが、信晴にとってそんなことはどうでもよいことだった。

「あの、似鳥(にとり)さん」
 大学の学食で一人きりの時を見計らって、信晴は目的の人物に声をかけた。

「ん? どうしての?」
 声をかけられた似鳥千鶴恵(ちづえ)は、ラーメンを啜っていた丼から口を離し、信晴に視線を向けた。それから手振りで空いている席に座るように彼を促す。
 
「これ……」

 信晴はスマホの画面をそっと千鶴恵に見せる。その画面には、殆ど布面積がゼロに近い下着を身に纏った女性が映し出されていた。ただし、顔は画面外にあり、首筋までしか見えない。
 一瞬だけ千鶴恵の頬が引き攣る。だが、すぐ呆れた顔になってスマホを信晴に向かって押し返した。

「セクハラじゃん」
 言ってから、ずるずると音を立てて不機嫌そうにラーメンを啜る。

「これ、似鳥さんだよね」
「あたしがそんなことすると思う?」

 小さな声で、しかし確かな怒気を滲ませて千鶴恵は丼に言葉を落とす。視線は自分が持っている箸の先に固定されていた。
 その仕草で信晴は確信を得てしまう。

 間違っていてほしかったのに。

「前に似鳥さんが酔っぱらって、僕に送信してきた画像あるでしょ。その時に見えた黒子が、この画像の女の子にもあるよ」
「偶然でしょ」
「似鳥さんがキヤンプで怪我をした場所と同じ場所に絆創膏を貼ってる時もあったよ」
「……偶然」

 信晴はその画像を表示させ、画面に表示した。その画像の中の女性の首筋に細長い傷がある。それを何枚もの絆創膏を貼って隠しているのだが、雑なので所々でズレていた。

「半年前のキャンプでタープを張った細引きに酔っぱらって激突した時の傷だよ」
 信晴は溜息交じりに浸ける。

 二人は大学のキャンプサークルに所属していた。
 明るく人懐っこい千鶴恵はサークルの中心人物で、一方の信晴は面倒事ばかり押し付けられる影の薄い存在。対極に位置する。だが、千鶴恵は分け隔てなく人に接するので、サークル内では信晴ともよく話をしていた。

 非の打ち所のない人格者とは思っていなかったが、この自撮りはいずれ千鶴恵の身を亡ぼす要因になりかねない。自分のような日陰者にも優しい彼女をそんな目には合わせたくない一心で、信晴は声をかけたのだった。

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