奇妙な依頼 (Page 2)

 ガレージの中は意外なことにクラシカルな外観の車が一台きりで、壁際には用途の分からない工具などが綺麗に整頓されていた。
 
それらを横目で見ている篤史に、紳士が不意にこんなことを言う。

「……これから、お時間はありますか?」
「それは、まあ」
 曖昧に答え、篤史は紳士の顔を見る。紳士は柔らかく笑ったままで、その表情は揺らぎもしない。
「もしもお時間が宜しいようでしたら、簡単な仕事をしていかれませんか?」
「仕事ですか?」

 何が悲しくて休日に仕事なんぞしなくてはならないのか。篤史は内心で顔をしかめ、断ろうとする。だが、彼が口を開くよりも早く、紳士が機先を制した。
「内容は非常に簡単です。私が指定する女性とセックスをして頂く。それだけです」
「はぁ」

 断りの言葉ではなく、間の抜けた声が篤史の口から零れ落ちた。その声が床に落ちるよりも早く、さらに紳士は事態を進める。
 
「その女性はこの家の中にいますので、まずは見つけてください。かくれんぼをしている、とでも考えて頂ければ結構です」
「……あとで、レイプとかで訴えたりされませんかね」
「もちろん、そんなことはありませんよ。仕事を引き受けて頂ければ簡単ですが、契約書に署名をして頂きますので、内容をご確認ください」
「その、仕事の内容っていうのは、この家の中に隠れている女の人を見つけて、えー、その」
「セックスをして頂きます。もちろん、きちんと避妊はしてね」

 最後の一言を冗談めかした声音で言われ、篤史は本当に意味が分からなくなってきた。しかし、非常に興味をそそられる事態であることは確かだ。
 
「引き受ける前に契約書を確認してからでもいいですか?」
「契約書の内容や仕事に関わることは一切他言無用でお願い致します」
「ちなみに仕事っていうからには幾らか貰えるんですよね」
「もちろん」

 紳士に告げられた金額は篤史が想像していたよりも桁が一つ多かった。その金額を手に入れられることはあまりにも魅力的で、篤史は紳士に言われるがまま契約書を確認し、拇印を押したのであった。
 そうして彼は家の中に招き入れられ、そろそろと脚を動かしている。
 
 空調が効いているらしく、機械の動く音が微かに耳につく。家の中は快適だが、半端に静かで薄暗く薄気味が悪い。
 

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