奇妙な依頼 (Page 5)
「このっ」
篤史は女性の腰を掴み、全力で腰を叩きつけた。肉のぶつかる音が連続して鳴り響き、女性の太腿を伝って愛液が落ちていく。
篤史と女性の我慢比べだ。
どちらが快感に呑まれて射精するか、声を出すか。
だが、そんな意地の張り合いにも似た力任せの性交は、あっさりと終わる。
女性の膣肉が舌で舐るような動きに変わった。不意打ち気味の動きの変化に篤史の我慢の堤防はあっさりと決壊し、二度目だというのに特濃の精液をコンドーム内に放つ。
「おおおっ」
腰が震え、声が出てしまうほどの射精経験は今までの人生でしたことがない。ゆっくりと硬度を失った男性器を膣から引き抜くと、こぽっと音をさせて愛蜜が大量に吐き出された。
自分から腰を振っていたのだから、女性の方も多少なりとも満足できたのだろうか。
自分の性器をしまい、それから女性の身なりだけを整えて篤史は男性が待っているガレージへと舞い戻った。
「お疲れ様です」
「あ、はい。お疲れ様です」
「こちらが約束の謝礼です。ご確認ください」
封筒を紳士から受け取り、篤史はちらりと中身を見ただけで数えたりしなかった。
「ところで」
金が入った封筒をポケットに捻じ込んでいる篤史へ、紳士が物腰を崩さずに問いかける。
「彼女は、声を出しましたか?」
「いいえ」
「……そうですか」
あからさまに落胆した様子で紳士は応じ、ガレージのシャッターを解放した。
「また、機会があれば」
「はい」
ガレージから出て、篤史は目の前でゆっくりと閉まっていくシャッターを見つめる。
どんな理由があって、あの紳士は見知らぬ他人にあの女性を抱かせたのだろうか。何を落胆しているだろうか。
何一つ分からぬまま、篤史はガレージに背を向けて歩き出した。
すっかり忘れていたが、雨は止んでいる。小さな水溜まりを幾つか飛び越えたり、迂回したりして篤史は、見慣れた町並みの中に戻っていった。
そして、あの場所を振り返らなかったのと同じように、二度とあの場所へは近づかなかった。
(了)
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