恋に切り札はない (Page 4)
しばし二人の視線が離れた。会話も途切れてしまう。
「あの」
「あの」
大吾と澄乃の声がハモる。
気まずい思いで二人してまた黙ってしまうが、大吾は腹に力を入れて口を開いた。
「お時間宜しければ、少しお話をしませんか?」
「……はいっ」
それから二人はお互いの趣味の商品をプレゼンし合い、結局閉店まで居座って店主に追い出された。
まだ話し足りなかった二人は近くのファミレスに入り、学生時代に戻ったようだと、大吾と澄乃は笑い合う。
気づいた時には時刻は深夜となり、終電はとっくになくなっていた。
「来ませんか?」
「えっ?」
「うちに来ませんか?」
大吾は自分がどんな顔をしているのかすら分からなくなっていた。女性を自宅に呼ぶなど、それこそ学生のとき以来だ。
「はい……」
消え入りそうな声で澄乃が返事をする。
会話が途切れた。二人はそのまま一言も喋らず、大吾の自宅へと向かう。
自宅へ辿り着いても大吾は何も言えなかった。玄関で靴も脱がず、じっと自分を見ている澄乃を見つめ返すことしかできない。女性経験が大吾にはあったが、かつてないほど緊張している。
それでも意を決して彼は澄乃を抱き寄せ、唇を重ねた。
とてもよかったです!
匿名 さん 2020年7月8日