狂笑

・作

灰島(はいじま)はギャンブルで金を使い込んでしまった中井有理紗(なかい ありさ)を下心から助ける。そして、金をすぐに返せないという有理紗の体に灰島は手を伸ばすのだった……。

 マジでこんなことあるのか。

 そんなことを灰島(はいじま)は思った。

 彼の前では青い顔をしている女が項垂れている。

 彼女は灰島の住むマンションの住人である。同じ階ではないが、ゴミを捨てる時などに顔を合わせれば挨拶をする程度の顔見知りでしかない。

 そのため彼女の苗字どころか何階の住人なのかも分からなかった。

 だが、細身の体と微かな気怠さを感じさせる容貌は灰島の好みだったため、良く憶えていた。アクセサリーの類も着けず、化粧も申し訳程度。どんでもない美女という訳ではないが、すっきりした鼻梁と左目の下にある泣き黒子が、気怠げな容姿と相まって妙に色っぽい。

 女日照りだった灰島は、ついつい彼女の体のラインを目でなぞってしまうこともあった。

 それはさておき、灰島はとりあえず知りたいことを訊ねることにする。

「名前、あと住んでる部屋番号、教えてくれませんか?」

「あの、それは……」

「今日、俺が肩代わりした額。結構なもんですよね。返してもらえないと、困るんで」

 灰島は、あえて突き放した言い方をする。

「中井有理紗(なかい ありさ)です」

「部屋は?」

「……408号です」

 二つ下の階だったか。

 灰島は小さく頷いた。

「まあ、同じマンションに住んでる者同士、多少は助け合いますけど、ちゃんと返してくださいよ」

「返します。絶対に」

 青い顔のまま有理紗は灰島につられたように何度も頷いてみせる。

「ちなみにどれぐらいで返してもらえます?」

「……」

「俺はもうちょっとしたら更新があるんですよ。だから、それまでに返してもらいたいんですけど」

「いつ、でしょう?」

「来月末です」

「えっ!?」

「じゃなかったら、あんな大金持ち歩きませんよ」

「で、でも、マンションの契約更新にあんな額は……」

「ああ、俺、一応自営業なんです。で、事務所も同じ不動産屋で借りてるんですよ。面倒なんで更新はまとめてやるってことを取り決めてて、それであの額です」

 ますます有理紗の顔色が悪くなる。もはや青を通り越し、真っ白になっていた。

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