夏の終わりを無作為に過ごす

・作

突然の解雇で職を失った主人公。家族に事実を伝えることも出来ずに日々を過ごす。出会い系サイトで一緒に死んでくれる相手を探していると、一通の返信がくる。「会って下さい。××海岸で。」思い出の海岸に足を運ぶ主人公が出会った女性とは…?

 突然の解雇通告。
 
 その言葉を家族に伝える事が出来ずに、1週間のカラ出社が続いている。
 
 会社都合のリストラだから、私が気に病むことはない。
 
 残った有給を使えるし、失業手当は直ぐに降りる。
 
 けれど新しい職に付くと言う事を考えると、足取りは酷く重くなる…。
 
 自分がいらないと思われた。
 
 誰にも必要とされない。
 
 私は何も出来ない。
 
 心が病むには十分な動機だ。
 
 新しい仕事など見つかるのか?続けられるのか?
 
 それならば、黙って私が消えた方が、家族の心配全部を解決できるのではないか…。
 
 朝起きて外に出て夜になれば家に戻る。
 
 普段と変わらない…なにも変わらない。
 
 変化を恐れ、変わらぬ生活を望むのは贅沢なのだろうか。
 
 見た目ではわからないであろう変化を、私はひた隠しにするしか無かった。

 ピコン!

 携帯から、ひと昔前の出会い系サイトの通知音がなる、何もする事がなく久しぶりにログインしていたのを思い出す。
 
 私の書き込み内容は『一緒に死んでくれる人を探しています。』
 
 廃れ荒れているサイトの投稿に反応してくるのは、暇人かサクラくらいだろう。
 
 わかっていても、見知らぬ他人の返事に興味を引かれてしまう。
 
『会って下さい。××海岸で。一緒に死にましょう。』

 普通の状態ならスルーしてしまう文章。
 
 当てのない今の私が行動をするには適当な理由だ。
 
 ××海岸は私の慣れ親しんだ場所であり、死に場所にはちょうど良いかもしれない―――。
 
 ―――青い海、白い砂浜、熱気は心も体も焼いてくれる…。
 
 日本の海がそこまでキレイならば、観光客も、もっと増えるだろうに。
 
 目的の駅を降りて、目の前に広がる海岸は、青くなく、白くなく、熱気は湿気を帯びている…そんな理想とは程遠い日本の海岸だ。
 
 夏の連休は終わり、もう新しい季節が始まろうとしているというのに、それでもこの海岸の海水浴場には人が集まっている。
 
 ここに来るまでの電車の中で、ただ揺られている時間も、他人事の用に感じていた。
 
 ただ一点を見つめ、頭の中で誰ともわからない相手のメールの言葉を反芻する。
 
 特に時間も場所も決めた訳ではない。返事も返していない。自分でも何がしたいのか理解していない。
 
 ああ…なんで生きていたんだろう。

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