女教師の秘め事
教師の高木詩乃は彼氏に振られて泣いている所を生徒の谷村陸に見られてしまう。その写真を公表されたくなかったら関係を持てと脅され、渋々要求に応じる。1回だけと念押しした詩乃に、最後までしなければ終わらないと返されて、挿入されないまま関係を続けてしまう。そして関係を続けるうちに、気持ちが揺らいできて……。
「お願い、捨てないでー!」
夜のラブホテル街で高木詩乃は男の足を掴んで泣いていた。通り過ぎる人々がジロジロ見てくるが、構っていられなかった。
「離せよ、みっともねえな。お前とはもう終わりなんだよ」
「あっ」
詩乃を振り払い、男が去っていく。
残された詩乃は道路にうずくまってうめいた。アスファルトに涙が落ちる。
「……そっちから告白してきたくせにぃ……誕生日プレゼントにブランドの時計もねだったくせにぃ……最後にヤリ捨てってクソ男……」
呪詛めいた事をぶつぶつ泣きながら言っていると、声がかけられた。
「……高木先生?」
詩乃はビクッと震えた。うずくまったまま声色を変えて答える。
「……知りません……。人違いじゃないですか……」
「高木先生ですよね」
詩乃はおそるおそる顔を上げた。
自分が受け持っているクラスの生徒、谷村陸が見下ろしていた。
終わった……と詩乃は内心つぶやいた。
*****
「スカートが短いですよ、直して」
詩乃は廊下ですれ違った女生徒に注意した。
ピシッとスーツを着て、髪もきっちり一つにまとめている。生徒指導の詩乃は陰で生徒に鬼ババ、冷血教師などと呼ばれていた。
ニコリとも笑わない鉄面皮に厳しい指導、高圧的な態度に恐れている生徒も多い。
そういう教師像を作り上げるために努力してきた事は誰も知らない。
「高木先生、ちょっといいですかー?」
陸が微笑み、詩乃は頬をひくつかせた。
生徒指導室に入ると、詩乃は自分から切り出した。
「昨日の事は忘れて下さい。ちょっと……その、酔っていたので取り乱したというか」
「お酒の匂い、しませんでしたけど?」
詩乃がぐっと詰まると、陸がスマホを取り出した。
「はい、証拠写真」
詩乃が男の足にすがりついて泣いている写真が写っていた。
思わず奪おうとした詩乃を避け、陸がスマホを振る。
「これ、皆に見せたらどうなるかなあ。冷血教師も男に捨てられそうになったら必死になるんですね」
「……どうしたら消してくれるの」
「察しがいい先生は好きだなあ。俺達のような年頃の男って、性欲有り余ってるんですよ。……分かりますよね?」
「脅す気?」
「俺は見せてもいいんですよ。どうします?」
「……分かったわ。最後まですれば、写真を消してくれるのね?」
陸が頷く。
「それじゃ、1回すれば終わりという事でいいわね?」
「1回だけ? ……まあいいか、じゃあそれで」
陸が近づいてきて、詩乃は身構えた。
「もう昼休みが終わるから、今日はこれだけ」
手を取って指を絡める。いわゆる恋人つなぎをされて、詩乃は戸惑った。
「明日、放課後にここで」
陸はクラスの中心的な存在で、いわゆる陽キャだった。成績も良く、モテるだろうになぜ自分に興味を持つのか詩乃には分からなかった。
三十手前でも学生達にとってはババアなのだろう自分に。
詩乃は自分の手を見つめた。
手をつながれて、嫌ではなかったのが不思議だった。
まとまった話でさらにハッピーエンドなのがいい!
もちまる さん 2023年7月29日