ロールプレイ (Page 2)

「王子サマが何の用?」
「脚本の出来を確かめに来たのさ」
 キザったらしい口調と仕草で蓮見は竹野の肩に手を置いた。
「そりゃご苦労様」

 手を払い除け、竹野は印刷が終わったプリント用紙をワープロから取り上げる。中身をざっと確認したが、問題なく印刷されているようだった。
 
「もう、いいんじゃないかな」
 払い除けられた手を胸の前で握り、蓮見は弱々しい声で言う。
 
「いいって、何が?」
 内心では分かり切っていることをあえて竹野は疑問として蓮見に向ける。
 
「だって二人っきりだよ。それに……卒業するし」
「僕は蓮見が人を騙すのも上手いって知ってるよ」
「酷い。私は君を騙したりなんかしてないのに」
「騙されて演劇同好会の立ち上げに付き合わされた。騙されて部活に昇格した後もこうやって脚本を書かされてる」
「全部プラスになってるじゃない」
「蓮見にはな。僕は毎回出来が良いだの悪いだの言われるし、締め切りだってきついし。最悪じゃないか」
「君のおかげで私も良い思いができたよ」

 あっけらかんと蓮見は言って自信に満ちた笑顔を浮かべる。さっきの弱々しい声はやはり演技だったのだ。
「もういいよ。印刷終わったし、僕は帰る」
「うん」

 にこっと笑う蓮見に肩を竦め、竹野は印刷が終わったばかりの脚本をスクールバッグの中へ突っ込んだ。それから二人は手分けして戸締りをして学校を出る。
 
 校舎を出るころにはすっかり夕方は終わり、夜が始まっていた。頭上では日の光が失せたことで星が瞬き、風も鋭さを増している。
 
 ポケットに手を突っ込んで歩きながら竹野は冷たい風に首を縮めた。
「ねえ、竹野」
 呼ばれて竹野は視線だけ蓮見に向ける。
 
「付き合ってほしい所があるんだけど」
「僕はもう帰りたいんだけど」
「お願い」
「分かった。分かりましたよ、王子様」

 皮肉っぽく竹野は返事をし、蓮見に導かれるまま夜の町を歩いていく。そうして辿り着いたのは町外れの神社だった。小さいながらも鎮守の森があり、境内には濃度の濃い闇が満ちている。
 
「早く早く」
 暗闇に怯むこともなく蓮見は、竹野を境内の隅にある小さな小屋の中へと誘い込む。そして、小屋の内側から鍵をかけてしまう。
 
 小さな小屋の中は外よりもさらに闇が深い。そのせいか、視覚以外の感覚が鋭敏になっていた。普段は気にも留めないお互いの息遣いが生々しく感じられる。
 

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